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AIが人間の知的労働を代替し、事業環境の不確実性・複雑性が極限まで高まる時代。企業を率いるリーダーに求められる役割と能力は、根本的な変容を迫られている。企業の新規事業開発や変革を支援するプレイドの社内起業組織「STUDIO ZERO」代表の仁科奏氏は、「ビジネスアーキテクト」集団を率い、産官学連携のハブとなることで社会変革の加速を目指す。一方、慶應義塾大学大学院教授の白坂成功氏は、複雑な社会システム設計の専門家として、さまざまな分野で活躍する「アーキテクト人材」の育成に力をそそぐ。それぞれの視点を交錯させながら、「これからのリーダー」であるアーキテクトの理想像と、その育成システムの構築について2人が議論する。
実践知と形式知が交差する「共創」の学び舎
仁科 白坂先生が研究科委員長を務める慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科は、社会人学生が非常に多いそうですね。
白坂 ええ、在籍者のほとんどが企業や省庁などで働きながら学ぶ人たちで、年齢も20代から70代までと実に多様です。私の研究室にいる博士課程の学生十数人のうち、社会人経験がないのはたった一人。これは海外では当たり前の光景で、博士号を持つことはエビデンスベースでクリティカルに判断できるスキルの証と見なされ、企業のマネジメント層にも文系ドクターが数多くいます。日本で根強い「ドクターは就職が難しい」というイメージを覆し、実践知と専門性を兼ね備えた幹部人材を社会に送り出していきたいと考えています。
仁科 社会人が大学院で学ぶことでリーダーとしてのスキルが磨かれ、同時にアカデミアは企業の実践的な課題に触れることで研究が高度化していく。ポジティブなスパイラルですね。
白坂 従来の産学共同研究は、企業が抱える課題解決の一部を大学が請け負う形が主流でした。しかし我々は、企業が持つ実践的なノウハウ、言わば「実践知」を大学が持つ理論で体系化し、誰もが活用できる「形式知」へと昇華させる研究に力を入れています。
SDM研究科では、教員と学生の間に明確な上下関係はあまりありません。特定の分野においては、社会人学生のほうが我々教員よりも専門性が高いことも珍しくないからです。ロケットエンジン開発から地域活性化、災害時の意思決定まで、多岐にわたる研究テーマに取り組む専門家たちが集まっています。我々が一方的に教えるのではなく、互いの専門性を組み合わせ、新しい価値をつくり出す。それが我々のスタンスです。
仁科 まさに「共創」ですね。専門分野の異なる人たちの横のつながりも生まれるのでしょうか。
白坂 はい。我々はそれを「横串の専門性」と呼んでいます。現代社会の課題は、単一の専門性だけでは解決できません。だからこそ、個々の多様性を尊重し、異なる専門性を組み合わせて課題解決に当たる人材を育てたい。
人にはそれぞれ、自身の経験や専門性から物事を見てしまう認知バイアスや専門家バイアスがあります。意見が食い違う時、それはどちらかが間違っているのではなく、見えている世界が違うだけかもしれない。であれば、意見の違う者同士が協力して一つの物事を見れば、より正確に全体像をつかめるはずです。いかに自分と意見の違う人とコラボレーションするか。この重要性を、我々は伝え続けています。
仁科 そのお話は、STUDIO ZERO(スタジオゼロ)の理念と深く共鳴します。私たちは「産業と社会の変革を加速させる」というミッションを掲げていますが、一企業の力だけでは生み出せるインパクトは小さい。そこで、他の企業や行政、アカデミアと連携するための「産官学連携のハブ」となることを経営方針に据えています。
私たちの行動指針の一つに「アウフヘーベン」(止揚)があります。これは、個々の多様な専門性をぶつけ合うことで相乗効果を生み、より高い次元で課題を解決したり、新たな価値を創造したりすることを目指す考え方です。白坂先生のおっしゃる「横串の専門性」と本質的に同じアプローチだと感じます。