多様性を価値に変える、これからのリーダーシップ
仁科 システム・オブ・システムズは、まさに多様性の極みと言えるでしょう。しかし、多様なものがただ集まっただけでは、混乱が生まれるだけで新しい価値は生まれません。その多様性を価値創出へとつなげるリーダーシップとは、どのようなものでしょうか。
白坂 重要なのは、マインドセットとスキルの両輪です。まずマインドセットですが、多様なメンバーで構成されるチームにおいて、リーダーとメンバーは上下関係ではなく、単に役割が違うだけの対等な関係であると認識することです。リーダーは偉いのではなく、チームの一員として、全体をまとめてゴールに導くという「役割」を担っているにすぎません。
そして、その役割を果たすためのスキルとして、デザイン思考やシステム思考が不可欠になります。多様な要素がどのように関係し合っているのかをシステムとして捉え、全体をマネジメントしていく。SDM研究科では、このマインドセットとスキルを一体的に教えています。
仁科 新しいピンを立ててチームをオーケストレーションすると同時に、メンバー一人ひとりの目線に立ち、彼らが何を成し遂げたいのかを理解し、サポートする。その両方ができて初めて、リーダーとして認められるのだと思います。非常に難しい役割です。
特に、過去の事業環境で成功体験を積んできたリーダーほど、自己変革が難しいかもしれません。そのためには、リーダー自身が過去の成功体験を一度捨て去る「アンラーニング」(脱学習)が必要です。そして、周りのメンバーも「リーダー任せ」にするのではなく、場面に応じてみずからがリーダーシップを発揮したり、あるいはリーダーを支えるフォロワーになったりと、役割を柔軟に切り替えていく。一人ひとりの役割が固定化された旧来のヒエラルキー型組織では、予測困難な時代を乗り切ることはできないと思います。
白坂 環境が変わったのですから、組織構造や人の役割、リーダーシップも変わって当然です。変化のスピードが加速する現代では、過去の成功体験の“賞味期限”は驚くほど短い。だからこそ、常に学び続け、考え続けることが何よりも大切なのです。
仁科 残念ながら、日本の多くの企業では、日々のオペレーションには習熟できても、働きながら体系的に新しい知識やスキルを学べる場が非常に少ないのが現状です。その意味で、SDM研究科のような存在は極めて貴重です。
白坂 アーキテクト人材の育成は、実践と理論のどちらが欠けても成立しません。実践知だけでは環境変化に対応できず、理論だけでは社会実装ができない。社会課題が山積する日本は、実践の機会には事欠きませんが、理論を学び続けられる環境が不足しているのは、非常にもったいないですね。
仁科 私たちスタジオゼロも、企業や行政での成功・失敗体験といった実践知をアカデミアの世界につなぎ、そこで生まれた新たな理論やフレームワークを再び実社会に還元していく。そんなフィードバックループを高速で回すハブでありたいと考えています。
そうした活動の一環として、東京大学生産技術研究所の菅野裕介准教授の研究室とは、「アンラーニングフォーラム」を共同で運営しています。新たなチャレンジやイノベーションを生み出し続けるには、アンラーニングが重要だと我々は考えていて、大学で行われている研究と企業における新規事業開発の取り組みを結びつけるプラットフォームを創出することを目指しています。
また、武蔵野美術大学とは企業のカルチャー変革を加速させるために「カルチャーシフト・デザイン研究所」を設立しました。スタートアップから大企業まで複数の会社と組んで、効果的に企業カルチャーを変革するためのフレームワークを探索・構築することを目的としています。
白坂 自分自身がオープンになることで、相手もまた心を開き、情報や経験を共有してくれます。それによって互いの進化のスピードは加速します。クローズドな姿勢では、もはや先に進むことはできません。
仁科 共創パートナーとともに進化のスピードを上げられれば、それだけ創出できる価値やインパクトも大きくなります。常に自分たちをアップデートし続けなければならない緊張感はありますが、それ以上に大きな達成感と充実感があります。
白坂 自分にはない知識や経験を持つ人々と交わるのは、単純に楽しいことですよね。新しいことを学び、自分が成長する喜びは何物にも代えがたいものです。
仁科 未知なるものへの好奇心と、変化そのものを楽しめるマインドセット。それこそが、これからのリーダーに不可欠な資質かもしれません。そうした人は、自然と多様な専門性との出会いに恵まれ、その掛け合わせによって独自の価値を生み出し、可能性を無限に広げていくのだと思います。
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