2023年に社長、2024年にCEOに就任した髙橋氏は、SMBCグループの「Vポイント」とCCCの「Tポイント」の統合や、紀伊國屋書店・日本出版販売と組んだ出版流通改革といった大きなプロジェクトを推進してきた。すべてに共通するのは「パートナーシップによる事業改革・事業創造」である。「イノベーションのスピードを上げるには自前主義を捨て、パートナーと共創していくことが大事」と髙橋氏は断言する。その思想は、SMBCグループと共同で「日常に溶け込む銀行」をコンセプトに開発した新店舗「Olive LOUNGE」(オリーブラウンジ)の取り組みにも表れている。
また、髙橋氏は組織内部の変革にも言及した。2025年5月に本社を東京・渋谷から横浜・みなとみらいへ移転した目的は、グループ間の連携強化と、社員に働き方を選択する自由を提供することにあるという。自宅、オフィス、SHARE LOUNGE(シェアラウンジ)などから、その日の業務内容に合わせて働く場所を選ぶことができる「ABW」(Activity Based Working)の考え方を導入し、個人のパフォーマンス最大化とワークライフバランス最適化を図る環境を整えている。
イノベーションを加速させる「キードライバー」とは何か
両氏の挑戦が語られた後、セッションは「イノベーティブな組織文化のキードライバーとは何か」というテーマに移った。
磯和氏は、リーダーシップやダイバーシティといった要件を挙げつつ、「イノベーティブな動きが組織の中で回り出す力」がキードライバーとして重要だと主張した。大企業では改革の施策を打っても、実際に組織が動き出すまでに大きなエネルギーを要するが、一度回り始めればその加速力は大きい。回転を起こすために必要なのが「最初のきっかけになるような目に見える成果」である。

三井住友フィナンシャルグループ
執行役専務 グループCDIO
磯和氏は、かつて200万人程度で横ばいだったネットバンキングのMAU(月間アクティブユーザー)が、地道なUI(ユーザーインターフェース)/UX改善に努めた結果、300万人に急増した例を挙げた。この成果によって社内の関心が一気に高まり、「住所変更機能を入れてほしい」「カードローンの申し込み機能を追加してほしい」といった要望が各部署から殺到したという。目に見える成果が、組織を動かす強力なエンジンとなることを示すエピソードである。
一方、髙橋氏はキードライバーとして「フラットでスピーディな情報共有」を挙げた。インターネットやAIの普及により、役員と現場社員の間で社外情報に関する格差はなくなったが、社内情報はいまだに上層部に吸い上げられる構造になっていると指摘。「役員クラスが持っている情報をいかに早く、フラットに組織全体にデリバリーできるかをすごく意識している」と語る髙橋氏は、その実践として毎日社内ブログを更新している。自身の考えをリアルタイムでオープンにすることが、イノベーティブな動きが回り出すきっかけの一つになりえると考えているからだ。他の役員や社員にも社内ブログ更新を勧めており、最近では評論家的な内容から「自分の考えや印象を主観的に書く人が増えており、お互いの本音を知ることができる」と、その効果を語った。

カルチュア・コンビニエンス・クラブ
代表取締役社長兼CEO
モデレーターの三村氏からは、わずか1年半ほどで実現したTポイントとVポイントの統合の背景にある意思決定について、質問が投げかけられた。磯和氏は、SMBCグループ内で「顧客の囲い込みが難しくなる」という意見があったことを明かした。しかし、オリーブがSBI証券やライフネット生命保険など外部とのオープンな連携で価値を高めていることを例に挙げ、「ポイントだけ自前主義というのは理屈が通らない。オープンな共創でサービスの価値を高めていくほうが、お客様にとっては重要」とていねいに説明し、社内の理解を得たと述べた。
髙橋氏は、Tポイントが共通ポイントの先駆けであるという自負が社内にあったことを認めつつ、経営者の立場で「決済機能が弱い」という現実を冷静に分析していた。そして、「ユーザーにとってベストな選択肢はSMBCグループとのパートナーシップだと判断」し、この決断については「トップレベルで決めました」と、リーダーとしての果敢な決断があったことを語った。
両社のリーダー陣が、組織内の論理よりもエンドユーザーの価値を最優先したことが、スピーディな統合を実現する原動力になったといえそうだ。