AIは組織文化をどう変えるか。「脳の外部化」がもたらす未来

 セッションの3つ目の論点は「AI時代におけるイノベーティブな組織文化の育み方」である。

 この問いに対し、磯和氏は「組織文化の育み方というよりも、AI時代になって組織構造そのものが大きく変わっていく」として、より根源的な変化を予測した。大企業の組織構成は、おおむね「人間の認知能力の限界」に規定されている。人が顔と名前を一致させて関係性を維持できるのは100人程度が限界であり、仕事が増えるにつれて「法人営業第一部、第二部」のように部署が増え、組織間の壁が生まれる。しかし、「AIを活用すれば、認知能力の限界を超えられる」ため、「一つの部署に1000人、1万人いても人間同士がうまく連携できる」ようになり、組織は基本的に「フラット化していくだろう」と磯和氏は展望を語った。

 さらに磯和氏は、第1次産業革命が蒸気機関による「筋肉の外部化」であったことになぞらえ、AI革命を「脳の外部化といえる」とした。過去の産業革命期には、なくなった仕事以上に新しい仕事が生まれたように、AI革命も同様の変化をもたらすとの見方を示した。

 髙橋氏も「組織そのものが大きく変わるというのは、磯和さんがおっしゃる通り」と同意。組織構造や運営、情報共有のあり方が変わるようなパラダイムシフトは「一発逆転の大きなチャンス」と力を込めた。そして、「世の中の新しい動きを取り込み、AIをはじめとする新しいテクノロジーを味方につけた組織や人が、日本の次の産業を牽引するドライバーになる」と述べ、「AIに仕事を奪われる」のではなく「AIを味方につけた人に仕事が集まる」という未来像を提示した。

 この考えに基づき、CCCでは次のリーダー候補として5年間で100人の人材プールをつくる構想を進めている。その教育は単なるMBA的な知識ではなく、「人間としてしっかりとした軸を持つ」といった人格的資質と、「AIの活用力」を徹底して磨く機会を提供するものだという。

 このCCCの試みについて三村氏は、「まさに、渋沢栄一が説いた『論語と算盤』を現代において実践しようとする試みだ」と評した。

三村真宗
U-ZERO
代表取締役CEO兼CPO

過去を振り切り、未来をデザインする

 セッションの最後に、三村氏は「いまからできるアクション」について両氏にアドバイスを求めた。

 髙橋氏は、私たち一人ひとりの中にある固定観念や成功体験といった「既存のパラダイム」と冷静に向き合い、「それを切り離せるかどうかがこれからはすごく大事」だと語った。新しい一歩を踏み出せないのは、過去の自分を否定する怖さや他者からの反対を恐れる気持ちがあるからだとしたうえで、「それを一人ひとりが乗り越えていけば、組織は変わる」と訴えた。経営者の立場からは、社員の挑戦を後押しするために「失敗を許容できるだけの企業体力をつけ、環境をつくる。それができていれば、背中を押されなくても、自分の意思で一歩を踏み出せる」と、リーダーが果たすべき役割の重要性を説いた。

 磯和氏は、技術的な観点から「思いきった損切りの判断」の重要性に触れた。近年、生成AIから正確な回答を引き出すためにデータレイクのようなデータ基盤の整備が重要視されてきた。しかし、2024年に生成AI同士が会話できる標準言語「MCP」(モデル・コンテキスト・プロトコル)が登場したことで、AIエージェントが自律的に連携し、必要な情報を集めてくる未来が見え始めているという。磯和氏は、「これだけ一生懸命にデータ基盤の整備を進め、投資してきたのだから」とサンクコスト(埋没費用)に固執し、古い技術を使い続けることの非効率性を指摘。「技術の進化が非常に速いので、どこかで思いきった判断をしなくてはならない。それは仕方がないと割り切って、過去を切り捨てられるかどうか」が、これからの時代に極めて重要になると述べた。

 最後に、両氏から会場へメッセージが送られた。磯和氏は、自身が社会人になった頃に日本企業が世界の時価総額ランキングを席巻していた時代を振り返り、「社会人生活の最後に、日本をもう一度豊かな社会にしたいと本気で考えています。現在のような変動期は、日本が浮上するチャンスですので、皆さんもぜひ一緒に日本を豊かにしていきましょう」と呼びかけた。

 髙橋氏は、「『過去と他者は変えられないが、未来と自分は変えられる』といわれますが、本当にその通りだと思います」と述べ、「私たちは過去の知見や経験を活かしながら、いまここから主体的に未来をデザインしていくことができます。そして、AIのような新しいテクノロジーが、未来をデザインするうえで強い味方になります。自分一人ではなく、仲間と一緒に未来をデザインしていきましょう」と締めくくり、会場は大きな拍手に包まれた。

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