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DEIプログラムは後退しつつあるが……
この数年間、民間企業においても公的機関においても、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)に関するプログラムは後退してきた。そして、この傾向はしばらく続くかもしれない。従業員の多様性を擁護し、取り組みが十分ではないと感じている者にとって、現在は厳しい時期である。
しかし、希望の持てるニュースもある。業績向上を目的に設計されたマネジメントに関する多くのイノベーションが、副次的効果として従業員の多様性を実質的に高めること、しかも公式のDEIプログラムのようにバックラッシュを招くこともないことを示すエビデンスが相次いで報告されているのだ。
このエビデンスは、失業率が著しく低かったこの7年間に集められたものである。より少ない人員でより多くの成果を挙げ、従業員のエンゲージメントを維持しなければならない状況下にあって、さまざまな業界の賢明な経営幹部たちが、高業績管理ツールに頼り始めている。
これらのツールには、採用(最初に最良の人材を採用する)やスキル研修・メンタリング・ワークライフサポート(採用したすべての従業員が適切なキャリアパスを見つけ、雇用期間中に成功できるよう支援する)のようにキャリアサイクルのさまざまな時期を対象とするものもあれば、企業にとって困難な時期の人材維持(人員削減が避けられない場合、機能部門や勤続年数ではなく、業績に基づいて判断を下す)を目的とするものもある。
高業績管理の原動力となる考え方は単純である。すべての従業員が尊重され、支援され、彼らが最善を尽くせるように動機づけられる労働環境を創出できるならば、従業員からより高いエンゲージメントを引き出し、ビジネスでよりよい成果を挙げられるというものだ。ここでは多様性は目標ではないが、必然的に生じる副産物である。
従業員の多様性に関する筆者らの研究は、米国で実施されたものだがグローバルにも当てはまる内容であり、この考え方の正しさを裏づけている。この研究で筆者らは、さまざまな業界から約800社のデータを収集し、統計分析を行っている。
業績向上のために企業が使用する技法の多くは、包摂の促進という点で、多様性研修や苦情処理プロセスなどのよくあるDEI施策よりもよい成績を残している。一般的なDEI施策は逆効果を招きがちであり、筆者らはこのあたりの実情を「差別の心理学:ダイバーシティ施策を成功させる方法」(DHBR2017年7月号[注1])で10年近く前に詳しく論じた。しかも、これは現場で直接業務に当たる職種に限らず、経営陣を含めてあらゆる種類のポジションに当てはまるものだ。
この注目すべき動向は、希望となるに違いない。より多くの企業がある種の高業績管理の技法を使い始めるならば、たとえ公式のDEIプログラムが縮小されたり廃止されたりしても、多様性指標の改善が期待できるのである。
しかし、重要なのは次の点だ。企業が多様な人材を惹きつけ、育成し、維持するうえでこれらの取り組みが役立つのは、それが「ハイポテンシャル」と見なされたごく一部の人材だけにではなく、すべての従業員の管理に使われた場合のみである。