戦略の意図と実践方法を伝える「ストラテジー・マップ」

 敵地に攻め込んだ軍隊の将軍になったつもりで考えてほしい。

 このような場合、まず必要なのは言うまでもなく精密な地図だ。主要都市や村落、周囲の地形、橋やトンネルといった重要な建造物、そして当該地域の幹線道路や高速道路を正確に示す地図である。そうした情報がなければ、指揮官や部下に作戦を的確に伝えることなど到底不可能だろう。

 不幸にも、多くの経営者はまさにこれと同じ轍を踏もうとしている。そう、地図を与えずに作戦を指示するのである。事業戦略を実行に移す時、何をすべきか、なぜその仕事が重要なのか、従業員にはごく限られた説明しかなされていない。

 多くの企業は、詳細な情報がないまま戦略を実践に移し、当然のごとく失敗する。完全に理解できていない計画をいったいどうして遂行できようか。やはり、戦略とプロセスを伝達するツール、そしてその実行を助けるシステムが必要である。

 これを実現させるのが「ストラテジー・マップ」である。このマップを見れば、従業員は自分の仕事が組織全体の目標とどのように結びついているのかがわかり、企業目標に向けて連携・協力して業務を進めることができる。さらに目標の優先順位が一目瞭然となるばかりか、その達成において各目標にはどのような相互関連性があるのかもわかる。

 ストラテジー・マップは、どんな目標をも図示することが可能だ。売上げの拡大でもよいし、将来有望なターゲット顧客市場でもよい。

 たとえば、取引を増やし、利益率を高めるためには、バリュー・プロポジション(自社が顧客にもたらす一連の価値の提案)を示したり、製品やサービス、製造プロセスにおけるイノベーションやエクセレンス(卓越性)が果たすべき役割とは何か、目標成長率を達成・維持するために人材やシステムにどれくらい投資すればよいのかなど、あらゆることが書き込める。

 ストラテジー・マップは、ある項目の改善とそれが生み出す結果との因果関係も示すこともできる。たとえば、プロセス・サイクル・タイムが短縮される、あるいは従業員の能力が高まると、顧客継続率が高まり、ひいては利益が増大するといった具合だ。

 さらに広い視野からとらえると、ストラテジー・マップは、ある組織が企業目標や経営資源(企業文化や従業員の知識などの無形資産を含む)をどのように有形の成果に変えていくのかを示す地図でもある。

なぜストラテジー・マップなのか

 工業化社会では、原料を完成品に変えて価値を創造していた。経済は基本的に有形資産――在庫、土地、工場、設備――を基盤としており、帳簿や損益計算書、貸借対照表といった財務諸表を使って事業戦略を文書化することで表現してきた。