-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
画期的なイノベーションがなぜ失敗するのか
1998年、モトローラはある商品を市場に導入した。〈イリジウム〉である。これは携帯電話の世界を一変させると目されていた。
同社はこのように宣言した。「この商品は世界のどこでも、地形を問わず、国を問わず、途切れることなくワイヤレスのコミュニケーションを提供する世界初の携帯電話になる」と。
ところが、〈イリジウム〉は惨憺たる結果に終わった。モトローラは新技術の採用を焦るあまり、商品の多くの欠点を見逃してしまった。重たい、多くのアタッチメントが必要、自動車やビルの中では使えない等々――。世界をまたにかけて活躍するエグゼクティブが必要とする場所で使えなかったのだ。
しかも、その価格は3000ドルという高額であった。150ドルの携帯電話を捨ててまで、〈イリジウム〉に乗り換える理由はどこにもなかった。
この例が示すように、最も賞賛されているような企業でさえ、せっかくのイノベーションを見事に失敗させてしまう場合がある。新技術を市場に導入する際、発売時期を焦りすぎたり、価格設定を誤ったりするためだ。
さらに、画期的にもかかわらず、他社が採用しているアイデアを無視したために、廃業に追い込まれるというケースもある。たとえばCNN(Cable News Network)について、競合他社は最初のうち、低賃金で若い記者たちを使ったことを皮肉って「CNNはチキン・ヌードル・ネットワーク(Chicken Noodle Network)の略じゃないのか」と一笑に付した。
この話は、イノベーションにおける課題とは何か、その本質を理解できていないということではない。新商品は、競合商品とは一味違う有用性を提供すると同時に、魅力的な価格でなければならない。しかもそれ相応の利益を生み出すものである必要がある。
しかし、イノベーションには不確定要素があまりに多く、洞察力に優れたマネジャーでさえも、市場導入の機が熟しているのかどうかの判断はもちろん、新規事業アイデアの可能性を見極めるのに四苦八苦している、というのが実状である。
事業アイデアの成否を評価するツール
ここでは、イノベーションをめぐる不確定要素を減らす体系的なアプローチを紹介しよう。
新しいアイデアを市場で成功させるには何が必要なのかを理解するために、イノベーションに何度も成功している企業を100社以上取り上げ、そのデータベースを作成した。また、これら企業の商品やサービスに敗れた企業についてもそのデータを集めてみた(囲み「イノベーションの成功と失敗の調査研究」を参照)。
イノベーションの成功と失敗の調査研究
一昔以上前にもなるが、我々は利益を上げながら成長を続ける企業の共通点を研究し、イノベーションこそが重要な牽引役であることを見出した。これはスタンフォード大学のポール・ローマーによる経済学の先鋒「新経済成長論」と一致するものである。
以来我々は、どのようにイノベーションが生まれるのかに焦点を絞って研究してきた。第一歩として、さまざまな業界で成功している30以上の革新的企業を追跡し、包括的データベースを集積した。
やがてインターネットの時代が始まり、ドットコム企業が増えるにつれて、このデータベースは100社余りにも拡大した。そのなかには、イノベーションに成功した企業もあれば、失敗した企業もある。これらの企業の数百人に上るマネジャーにインタビューし、成功と失敗とを系統的に比較した。
我々がこれまでHBRに寄稿した論文は、この調査研究を基に、成功企業のイノベーションが、いかに業界地図を塗り替え、新市場さえも生み出す結果になったかを説明したものである*。また、新しいアイデアや知識を生み出し、分かち合い、育てる職場環境を、どのように整備することができるかも説明した。
本稿では、業界と会社からイノベーション自体へと視点を移した。また、マネジャーが革新的なアイデアの市場での潜在能力を測るための、3つの分析的ツールを紹介する。
*"Value Innovation: The Strategic Logic of High Growth," Harvard Business Review, Jan.-Feb. 1997.(邦訳「バリューイノベーション:連続的価値創造の戦略」『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』1997年7月号)、および "Creating New Market Space," Harvard Business Review, Jan.-Feb. 1999.(邦訳「バリュー・ブレークスルー・マーケティング」『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』1999年7月号)を参照。
この情報に基づいて、我々は事業アイデアが出てきた時に、それが市場で勝てるものかどうかを判断するのに役立つ3つの分析ツールを開発した。これらのツールは、その事業アイデアがどのような市場ポジションであろうと、あるいはまったくの新市場を創造するものであろうと応用可能である。



