心理的安全性をめぐる6つの誤解

 安心して発言できる環境が確保されている状況を意味する「心理的安全性」という言葉は、かねてより心理学やマネジメント論の研究では使われていたものの、一般に知られてはいなかった。それがいまでは、その概念まで広く世の中に知れわたるようになった。心理的に安全な職場をつくろうと腐心するマネジャーやコンサルタント、人材研修企業は数えきれず、心理的安全性を取り上げた記事は数千本に及ぶ。

 この分野の研究者として高い専門性を有する筆者らにとって、品質向上やイノベーションの加速、パフォーマンスの強化を実現できるかどうかは、従業員の意見にかかっているという点が組織に認識されていることは喜ばしい。実際、心理的安全性がパフォーマンスの改善につながることを示す研究結果は数多く、その根拠は確かなものだ。

 しかし、心理的安全性が広く知られるようになるにつれ、誤解もまた増えている。結果的に、多くの経営幹部やコンサルタントは、心理的安全性を熱心に支持していても、その概念が誤認・誤解され、筋違いの期待をかけられて進歩の妨げになっていることに歯がゆい思いをするようになった。

 たとえば、筆者らがリーダーたちから聞いた話では、建設的な話し合いの最中に反論された参加者が、それは心理的に安全ではないと評したために議論が行き詰まったという。このような誤解は、組織に害を及ぼすことがある。また、誤解がいつまでも解消されないと、心理的安全性の目的である学習の促進とパフォーマンスの向上そのものが台無しになりかねない。

「心理的安全性とは何であり、何でないか」を本当に理解しているリーダーたちは配下のチームにその概念を明確に伝え、害が及ぶ前に誤った思い込みを解消して、部下たちが惑わされることなく、常に率直さから恩恵を受けられるように配慮している。筆者らが本稿を執筆する目的は、リーダーたちのそうした努力を支援することにある。

 本稿では6つの誤解について説明し、なぜそれぞれが妨げになるのか、どう対処すべきかを解説する。そのうえで、強い学習志向を持つ職場環境を構築するための青写真を示す。そうした環境は、不確実な世界で成功するために不可欠である。

〔誤解1〕
心理的安全性とは感じよく振る舞うことだ

 オランダでコンサルタントをしているニコルは「私たちのチームは心理的に安全です。何しろ、言い争うことがありませんから」といったことをクライアントから繰り返し聞かされていると、先日話してくれた。心理的安全性の専門家である彼女は、これが危険信号だと認識した。

「心理的安全性は感じよく振る舞うことである、あるいは居心地がいいことである」というのは実際のところ、最もよくある誤解の一つだ。筆者らは企業でも教育現場でも、この種の誤解を目にしている。たとえば、筆者らが知っている大学院生は、大人数が出席する授業は居心地が悪いことを理由に、対面での授業出席からオンライン出席への変更を願い出た。授業環境は自分の心理的安全性にとって重要だというのが彼女の言い分だった。

 ここで問題が生じる。この文脈で「感じよくする」というのは「本当に思っていることは(それが耳触りのいいことでない限り)口にしない」という意味だ。率直さとは、基本的に真逆である。