「様子見」の姿勢は危険

 生成AIについて、筆者らがビジネスリーダーから最もよく問われる質問は、次のようなものである。「生成AIが当社の最優秀社員に匹敵する知能を持つのはいつか」「生成AIはビジネスで価値を生み出せるほど精度が高いのか」「AIトランスフォーメーションを率いるという点で、当社のCIOの動きは遅くないか」「競合他社は生成AIをどう活用しているのか」

 しかし、こうした質問は的外れである。どの質問も生成AIの知能そのものや、その動向──つまり、生成AIがどれほど優れており、どれだけ進化のスピードが速いかを問うているだけで、事業戦略に与える影響に目を向けていないからだ。リーダーが問うべきは「生成AIには制約があるが、それを踏まえて現時点で有効活用するにはどうすればよいか」、そして「それをいかにして競争優位へとつなげるか」ということである。

 本稿では、筆者らがこれまでに数百人ものマネジャーと協働し、生成AIの取り組みを主導してきた経験、そしてデジタル分野の変革と戦略を研究してきた経験に基づいて、生成AIを戦略的に捉えるための思考のフレームワークを提案し、実践的なアドバイスを提供する。

 筆者らの主張は、ハルシネーションのようなAIの欠陥を理由に慎重な「様子見」の姿勢を取るのは危険性をはらんでいるということだ。ただし、スピード勝負だと言いたいわけでもない。勝敗を分けるのは戦略である。企業は、競合他社や自社のバリューチェーンに含まれる他社とは異なるやり方で、生成AIを適用する必要がある。いますぐ動き出すべき理由は次の通りである。

 生成AIは非技術系の従業員でも専門家のサポートなしに利用できる

 これまでの数十年間、AIの利用は主にエンジニア、コンピュータプログラマー、データサイエンティストといった専門職の領域に限られていた。しかし、オープンAIのチャットGPTをはじめとする生成AIが登場し、自然言語によるやり取りが可能になったことで状況は一変した。

 生成AIが画期的だったのは、知能の向上はもちろんのこと、利用可能性が劇的に高まった点にある。いまでは組織の誰もが生成AIツールを利用できる。その際に高度な技術的専門知識は必要なく、データサイエンス部門のサポートも、全社を統括するIT部門の承認を得る必要もない。

 さらに、メール、テレビ会議、スプレッドシート、CRM(顧客関係管理)ソフト、ERPシステムなど、すでに使用されているツールへの生成AIの組み込みも進んでおり、AI導入のハードルはますます下がってきている。

 このような人間とコンピュータのインタラクションの進歩は、コマンド入力が前提だった初期の頃から、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)へと移行したことと似ている。1980年代、Windowsがパーソナルコンピューティングに抜本的な変革をもたらした。それはコンピュータが大幅に高性能化したからではなく、MS-DOSコマンドを知らなくてもその機能を利用できるようになったからである。

 同様に、生成AIを使えば、文章の入力ができる人ならば誰でも、高度な機械学習モデルを利用できる。ゆくゆくは、音声による会話でも利用できるようになるだろう。