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不安定な時期に取締役会が陥りがちな問題点
新型コロナウイルス感染症の第一波が起きた当時、多くの取締役会は嵐が収まるまでCEOの交代を先送りできると考えていた。しかし5年後のいま、嵐を乗り越えた先などないことは明らかだ。
今日の予測不可能な環境では、従来の予測モデルが役に立たず、取締役会にとって、サクセッションプラン(後継者育成計画)をどのようにすべきかを理解することは難しい。実際、思い違いをしている取締役会も多い。スペンサースチュアートで筆者らのチームが、欧米の主要株価指数に採用されている企業のCEO承継事例を調査した結果、そう結論するに至った。
とりわけ、昨今の取締役会には大きな問題行動が3つある。1つ目は意思決定の回避だ。S&P500種株価指数の採用企業のうち、CEOが交代した企業は2020年以降で13%減っている。過去4年間のうち、3年間は10年ぶりの低い水準にある。「嵐のさなかに指揮官を代えるな」という理屈のようだ。
しかし暴風雨が収まらないのであれば、じっと待っていても意味がない。行動しなければ、「いまは身を潜める時期だ。前に進む時ではない」という望ましくないメッセージを組織に発信することになる。このようなマインドセットの企業は新しい考え方を採用したり、優先順位の変更を促したり、勢いを創出したりする貴重な機会を逃してしまう。
筆者らが確認した2つ目の問題行動は、CEOの交代が決まっても、取締役会が万が一のために退任予定のCEOを別の役職に残しがちなことだ。2020年以降に米国で次期CEOを指名した取締役会の約半数は、退任予定のCEOを会長として残した。この割合は、2015年の27%から増えている。
それが必ずしも悪いわけではない。うまくやれば、波乱の時期に継続性を確保し、前CEOの貴重な知見を社内に残すことができる。しかし往々にして、プラス面よりマイナス面のほうが大きい。新リーダーの権限を弱め、意思決定者が曖昧になるからだ。また、組織に迷いがあることが表出し、「新CEOは本当に取締役会の信頼を得ているのか」と社内外で疑問が浮上する場合もある。
最後は、新たにCEOを採用する場合に取締役会が経験を重視しすぎることだ。前職に返り咲いて注目を集める「ブーメランCEO」の例は、枚挙にいとまがない(ウォルト・ディズニーのボブ・アイガー、デュポンのエド・ブリーン、UBSグループのセルジオ・エルモッティ、ユナイテッドヘルス・グループのスティーブン・ヘムズリーなど)。しかしそれ以外にも、過去に会社を率いた経験者を好み、初めてCEOに就く人物を避ける取締役会は数多い。
たとえば2024年だけを見ても、S&P1000企業で新たにCEOに就任した人の約4人に1人は、別の上場企業で経営トップを経験した人物だった。S&P500企業のCEO採用者に占める経験者の割合が最高を更新した年はこれまで4年あるが、うち3年が2020年以降の5年の中に入っている。史上最高は、2023年の22%だった。欧州の主要株式市場に上場する企業でも、同じようにCEO経験者の起用が増えている。2024年には、5人に1人近くがCEO経験者だった。
このバイアスは、不安定で捉えどころのない時期には企業のためにならない。それはなぜか。筆者らが『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に寄せた記事「新人CEOのほうが業績がよい理由」(DHBR2021年3月号掲載[注])で指摘した通り、経験豊富なCEOは往々にして、過去に成果を挙げた戦略に頼りすぎる。しかも、コスト削減を過度に重視しがちであり、新人CEOに比べて適応力に欠ける。



