サマリー:パーパスをはじめとする企業ブランドの強化を通じて企業変革に取り組む企業は多いが、必ずしも効果を上げているとはいえない現状がある。「ブランド経営」で不可欠な視点は何か。「ブランド経営」の実践を提唱する博報堂コンサルティングが支援した、カゴメ、Umios、クラフティアの3社の企業変革事例を通して考える。

【事例・カゴメ】MVVで自社の「当たり前」を共感に変える
【事例・Umios】アイデンティティの再定義で「第3の創業」へ
【事例・クラフティア】採用志願者数倍増。若手主導で企業ブランド刷新

不確実で先が見通せない時代にあって、企業ブランドは社会を惹きつけ、組織を牽引する「求心力」としての役割を期待されている。一方で、企業ブランドの根幹ともいえるパーパスを策定する企業は増えているが、形骸化しているケースが少なくない。「ブランド経営」がなぜいま注目されているのか。その実現に不可欠な視点は何か。博報堂コンサルティング代表取締役会長 パートナーの土屋亮氏に聞く。

ブランドは「イメージ」から「求心力」へと深化

 変化が激しく、不確実で先が見通せない現代、企業価値を向上させるうえで無形資産が重要な意味を持つようになった。実際、企業ブランドの軸となるパーパスやミッション、ビジョン、バリューズ(注)などを改めて策定し、社会において自社が果たす役割や目指す姿をステークホルダーと共有する企業が増えている。

(注)パーパス:企業としての存在意義、ミッション:社会に対する貢献や使命、ビジョン:目指すべき未来像、バリューズ:行動指針や価値観

 博報堂コンサルティングの土屋亮氏は「ブランドが果たす役割の変化」を指摘する。

「一般的には、消費者に対して製品・サービスのイメージを醸成していくのがブランドだと見なされています。しかし現在、ブランドは、企業経営の文脈において、顧客や従業員、取引先、株主、さらには社会全体を惹きつけ、自社のパーパスや目指す姿の実現に向けて、組織を牽引していく『求心力』としての役割を果たすようになってきています。正解がない世界で、方向性を指し示し、力強く導いていくリーダーのようなものです。自社だけで価値を発揮しにくい共創の時代において、周囲の期待を高め、同じ志を持った仲間を集めるうえでも、ブランドが大きな力を発揮すると期待されています」

 これまでマーケティングの文脈で語られることが多かったブランドは、いまや対外的なイメージという枠を超え、企業の本質を表すものへと深化している。

パーパスの形骸化を乗り越える「事業連動」の視点

 パーパスやミッション、ビジョンといった理念体系の構築・刷新は、企業統合や買収、社長の交代、中期経営計画の策定など、経営上の節目になされることが多い。その背景には、企業が以下のような問題や要望を抱えている事情があるという。

・社会価値(サステナビリティ対応など)が期待ほど事業価値に結びついていない
・自社の経営戦略や事業ポートフォリオの変革が株主や投資家に十分に理解されていない
・商品・サービスがコモディティ化しており、パーパスやビジョンに沿って新規事業やサービス開発をしたいが、経験やケイパビリティが不足している
・組織間やグループ会社間の垣根が高く、一体感がなく、共創ができていない
・海外ビジネスを拡大したいが、世界でのプレゼンスが十分ではない
・人手不足と人材の流動化が進む中で、優れた社員を採用・維持したい

 一方で、パーパスやビジョンの形骸化に頭を悩ませる企業も少なくない。こうした場合、「私たちはパーパスやビジョンが機能しない要因を特定することから取り組みます。聞こえのよいパーパスやビジョンを掲げ、経営戦略と連動していない、あるいはその会社らしさが見えないといったケースがよく見られます」と土屋氏は指摘する。

 先行きが不透明な時代において、経営の支柱として「自社の存在意義」を策定する動きは加速している。だが、パーパスを日々の経営へ落とし込むことが多くの企業にとって切実な課題となっている現在、土屋氏の言葉は示唆的だ。

「経営者の方々とパーパスを議論していると、事業ポートフォリオの話に発展することがよくあります。存在意義ややりたいことを深掘りしていくことで、その会社の『らしさ』が浮かび上がり、『やるべき事業』と『やらなくていい事業』が明確になります。買収や共創も同じです。経営者の方々も、パーパスやビジョンを持つことで、自信を持って決断できると感じているのではないかと思います」

「論理と感性」がブランド経営の実現をもたらす

 今年創業25周年を迎える博報堂コンサルティングは、これまで1000以上のブランドコンサルティングを提供してきた。同社が考える「ブランド経営」とは、「ブランドパーパスやビジョンを起点に、経営の仕組みや活動をデザインすることで、企業価値を向上しようとする試み」だと土屋氏(図表1)。その成否のカギを握るのは「理念体系と経営の一貫性」にある。

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図表1 博報堂コンサルティングが考える「ブランド経営」のモデル
ブランドパーパスを求心力に、事業戦略と一貫したブランド体験を提供し、それを支える仕組み(人材、組織、プロセス)まで一貫することで、事業価値を向上させる

「マーケティング部門やブランド推進部門だけに任せていては、ブランドを実現することはできません。経営層のリーダーシップの下、全社的に力を合わせることが必要です。ブランドパーパスやビジョンを求心力に、人材を育て、制度や業務プロセスといった社内システムを整え、中期経営計画や事業戦略と合致したブランド体験を顧客に提供する。こうした一連の取り組みを、経営陣や経営企画部門の皆様と一緒に進めることで、企業価値の向上を支援しています」

 博報堂のグループ企業である博報堂コンサルティングが、なぜ経営に深く入り込んだ支援を提供できるのか。その理由は、博報堂で経験を積んだメンバーやクリエイターに加え、経験豊富なコンサルタントが所属する人材構成にある。博報堂の「生活者発想」や「パートナー主義」という哲学を受け継ぎ、企業に対しても同様のアプローチで伴走する同社は、言わば「広告会社とコンサルティングファームのハイブリッド」。だからこそ「ブランドを軸に、経営革新・企業価値向上を実現することができる」と土屋氏は言う。

「経営者の方々と話をしていると、よくこんなことをおっしゃいます。『社名を変えて終わり、パーパスを決めて終わりではない。そこに込めた思いを、経営を通して実現してこそ、初めて成果といえるのではないか』と。私もまったく同感です。ブランドは目に見えないものであり、ブランド経営を実現していくには、論理的な思考力や経営や事業の理解だけでなく、「一生活者」としての洞察力や創造的な思考力が求められます。我々は、『論理に溺れない。感性に逃げない』をその哲学として掲げています。そんな姿勢でご支援する点が、私たちのユニークさだと考えています」

 以下、具体例として同社が支援する3社の事例を紹介する。

 カゴメでは、新たなミッション、ビジョン、バリューズの策定や新規事業開発に関わり、同社が取り組む「社会価値と事業価値の両立」を支援。Umiosに対しては、新社名の意思決定を含むブランド経営の実現を支え、マルハとニチロの組織文化統合によるソリューションカンパニーへの変革を後押ししている。またクラフティアについては、業容拡大などに伴う九電工からの社名変更に携わり、採用競争力や社内エンゲージメントの向上といった成果につなげているという。