【事例・クラフティア】採用志願者数倍増。若手主導で企業ブランド刷新
九州・福岡を拠点として、電気工事を軸に幅広く事業を展開する総合設備企業・クラフティア。長く広く親しまれた「九電工」からの社名変更を行ったのは、2025年10月のことだ。創業80周年を迎えた同社がリブランディングに踏み切った大きな理由は、「社名と事業内容の乖離」という成長企業ならではのジレンマの解消だった。若手主導による短期集中のプロジェクトによって同社が得たものとは。
拡大する業容にマッチした社名変更で「脱サブコン」へ
1944年に福岡で創業した総合設備企業・クラフティア。祖業の電気工事を軸に、空調管工事や配電線工事、情報通信、エネルギーなど幅広く事業を展開し、九州では暮らしと産業を下支えするインフラ事業者として広く認知されている。
事業エリアは九州だけでなく、首都圏をはじめ日本全国へと拡大しており、同社の業績もここ数年は高水準で推移している。2025年5月には、本社を福岡市南区から中央区天神の大型複合ビルに移転。同年10月1日には「九電工」から「クラフティア」へと社名を変更した。
その理由についてクラフティア社長執行役員の石橋和幸氏は、「社名と事業内容の乖離」を挙げる。「九電工」は創業時の社名「九州電気工事」に由来する(1989年改称)が、現在では九州以外の売上高が約34%に伸長(2025年度実績、以下同)。事業別の売上構成比においては、電気工事約50%、配電線工事12%に対して、空調・衛生工事が約35%にまで達している。加えて、都市開発事業、再生可能エネルギー事業、宇宙ビジネスへの投資など、多角化が進んでいる。
代表取締役社長執行役員
石橋和幸氏
「実は以前から『なぜ九州だけ?』『なぜ電気だけ?』といった声が社内にありましたが、事業の広がりがいよいよサブコンの域を超えるようになってきたことを踏まえ、役員会で名称変更を決定しました。2044年の創業100周年に向けて、全社員で目指す姿を思い描き、リブランディングに取り組む。それが真の狙いです」
「来年10月1日より社名を変更します」。2024年12月2日に行われた80周年記念式典で石橋氏がそう宣言した際、社名は白紙だった。それでも「いたずらに時間をかけても意味がない」という石橋氏の判断の下、5カ月後の新中期経営計画・決算発表(2025年4月末)での新社名公表を目標に、プロジェクトが始動した。
あなたたちはどんな未来が見たいのか――若手主導のボトムアップ起案
社名変更の支援を依頼した博報堂コンサルティングとの最初の打ち合わせの際、石橋氏は新しい社名・ロゴに求める条件を確認するとともに、本プロジェクトの“核心”を伝えた。
「100周年を迎えた時、会社を引っ張っているのは現在の若手・中堅です。彼ら彼女らがどういう会社にしていきたいのか、いまとは違うどんな景色を見たいのか。忖度なしに自由に語り合えるようにしてほしいとお願いしました」
ボトムアップの起案という石橋氏の強い意向を受け、博報堂コンサルティングは全社員アンケートを実施。理念や残したい価値、新しい社名への期待やアイデアなどを募り、約6000人に配布して4000以上の回答を得た。
また、次世代社員へのインタビューや全国の若手社員によるワールドカフェ方式の意見交換会をそれぞれ複数回実施して、会社の未来像や社名に込めるべき価値観を抽出・言語化。それらを集約・整理すると同時に、具体的な名称案やロゴ案についても、若手社員による検討会を複数回実施して、妥当性の検証や期待値の精査を行った。
こうした多層的な議論により、「九州への愛着・こだわりという共通の思いが浮き彫りになりました」と、博報堂コンサルティングのシニアマネジャー、山田聰氏は言う。
シニアマネジャー
山田聰氏
「全社員アンケートによって、社名の『九(九州)』に愛着を持つ方が一定数いることがわかり、『九』の文字を引き継ぐ「K」という頭文字から始まる社名を考案する方向で話がまとまりました。実は石橋社長も当初から同じお考えでしたので、経営層と現場の思いが一致していたわけです」
若手層を中心とした意見集約はわずか2カ月で完遂。その間の社内の様子について「徐々に盛り上がり、まるでイベントのようだった」と石橋氏。会社がどんな事業を行っているのか、その現状をよく認識したうえで「『自分たちの手でこんな会社にしていく』という未来像を考え、議論したそのプロセスにも大きな意味がありました」と振り返る。
ボトムアップによって具現化された多数の社名案とロゴ候補は、中堅社員や役員による検討を重ねて絞り込まれ、当初のスケジュール通りに新たな社名とロゴが決定した。
新社名「クラフティア」(KRAFTIA)は、同社の特徴を示す「クラフト」(Craft:技術・技能・技巧)、「イノベーション」(Innovation:革新)、「アクション」(Action:実行)を組み合わせた造語。クラフトの「C」を「K」に置き換えることで、前述した「九州(Kyushu)への思い」を表現している。
新社名がもたらした「採用への好影響」と「ミラー効果」
ロゴについては、「K」というモチーフと3色のカラーは踏襲されている。その理由を、石橋氏は次のように語る。
「九州の『K』もそうですが、当社のよきDNAは変えてはならない、ということです。特に配色については、ブルーは『技術』、グリーンは『環境』、レッドは『人』を表しています。これは『快適な環境づくりを通して社会に貢献する』という企業理念そのものなのです」(図表3)
図表3 新生クラフティアのロゴと本社エントランス、名刺サンプル
「クラフティア」という音の響きは「フロンティア」に似ているが、これにも理由がある。
「議論では、空調管工事などの事業領域の拡張や九州以外のエリアへの進出など、新たな挑戦を積極的に展開してきたことについて多く語られました。また、本プロジェクトに参加したことで、再エネ電力市場への参入や宇宙ビジネスへの投資の意義をあらためて知ったという若手社員の方も多く、議論を通して『新たな領域の開拓=フロンティア・スピリット』という発見につながりました。これが『クラフティア』という新社名に反映されたわけですが、会社の『芯』を見つけることは、強いブランドへと成長していくうえで非常に重要な要素です」(山田氏)
社名変更に先立って2025年8月には、新社名のイメージキャラクターとして宮崎県出身の俳優・高石あかりさんの起用を発表。テレビCMを含めて積極的なPR活動を展開した。同年9月から放送が始まったNHK連続テレビ小説「ばけばけ」の主演を務め、彼女の人気が急上昇したこととの相乗作用もあり、抜群の宣伝効果を上げた。
得意先を含め、新社名が順調に浸透している中、「投資のパートナーとしてお声がけいただく機会も増えている」と石橋氏。加えて、離職率の低下傾向が見られる一方、採用エントリーシート数が2年前から倍増したという。また山田氏は、社員の思いを込めた社名やロゴが社会に受け入れられ、それによって社員の意識や誇りがより高まる「ミラー効果」が生じていると指摘。石橋氏も同じように感じており、「だからこそ、現在の士気の高まりをいかに維持していくかが重要。これから会社を担っていく若手・中堅に社名を考えてもらったのは、そういう意味もありました」と強調した。
創業100周年に向けて、同社はどのような道を歩んでいくのか。石橋氏は今後について次のように展望する。
「本業の強化と業容の拡大はもちろんですが、都市開発事業や不動産事業、また文化やスポーツを含めた社会貢献にも力を入れていきたいと考えています。会社にどう貢献できるのかをみずから問うような社員が増えれば、業績はおのずとついてくるでしょうし、ブランドも確立されていくでしょう。こうした好循環を生むためにも、社会的価値と経済的価値をバランスよく高め、社員の貢献には処遇でしっかり報いながら、誰もが誇りを持てるような会社を築いていきたい。今回の社名変更のプロセスで、会社の未来に向かう原動力を構築できました。これをきっかけに事業成長をさらに加速させていきたい」
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