AI時代に、リーダーが「人間にしかできない仕事」を守る方法
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サマリー:AIは既存知識の整理や分析を大幅に高速化する一方、過度に依存すると組織の発想が無難で画一的になりやすい。前提を疑い、曖昧さに向き合って新たな方向性を示すには、人間ならではの「主体性」が不可欠だ。リーダーには、AIに任せるべき業務と人間が担うべき領域を明確に見極める姿勢が求められる。本稿では、リーダーの判断力・発言力・存在感を守りつつAIと効果的に協働するための4つのモードとその実践法を紹介する。

AIは似たような考え方を押しつける

 筆者のクライアントの一人であるスーザン(仮称)は、メディア企業のCEOだった。彼女は厳しかった四半期を終えて、従業員との対話集会の準備を進めていた。チーフ・オブ・スタッフ(CEOの右腕となる参謀役)はAIを使って、スーザンの過去のスピーチや社内の業績メモを参考にしながら、スピーチ原稿を作成した。原稿はていねいかつ理路整然とまとめられていて、会社の優先事項が反映されていた。だが、スーザンはそれに目を通すと、何かがずれていると感じた。あまりに無難すぎる内容だったのだ。目の前の現実に即しておらず、彼女が過去に語った励ましの言葉をつなぎ合わせただけのものだった。

 この出来事は、より大きな問題を示唆していた。この一年で、スーザンは経営幹部チームのワークフローにAIを組み込んできた。導入当初は目覚ましい成果があった。以前なら数日かかっていた顧客インサイトが数時間で得られるようになり、戦略ドキュメントには無数の会話から得られたアイデアがまとめられ、分析はより迅速かつ包括的になった。しかし、こうした利点にはトレードオフがあった。チームがAIを頼れば頼るほど、メンバーは似たような考え方をするようになった。彼らの仕事は、よくある無難なアイデアに偏るようになっていた。そうしたアイデアは、そつがなく理にかなってはいるが、個性がなくてありきたりだった。

 AIは、既存の考え方を強化するという点では、目を見張るほど有能になった。そのため、すでにある知識を共有する上では強力なツールになった。だがその一方で、前提を疑ったり、曖昧さに対処したり、新しい方向性を打ち出したりする点では、弱さがある。そのような局面で必要になるのが、人間の主体性(エージェンシー)だ。今後、リーダーたちはスーザンと同じ問いに直面することが増えていくだろう。それは、「リーダーの仕事のうち、引き続き人間の主体性が求められるのはどの部分か」「どの部分は問題なくAIに任せられるのか」ということだ。

人間の主体性が失われかねない

 職場における主体性とは、意識的に選択を行い、それに基づいて行動する能力を意味する。すなわち、判断力を働かせ、自分の立場や見解を明確にし、仕事上の関係に影響を与える能力だ。筆者は経営幹部へのアドバイザリー業務の中で、リーダーが多くの場合、「判断力」「発言力」「存在感」という3つの資質を通して主体性を発揮していることに気づいた。この3つの資質が合わさって、リーダーは説明責任と信頼性が求められる局面を乗り切ることができる。そうした局面では、AIは支援したり、意思決定に必要な情報を提供したりすることはできても、全面的に責任を負うことはできない。

 筆者が関わる経営幹部たちのAI活用を見ていると、当初は些細に思えた業務を少しずつAIに委ねるうちに、彼らの主体性が次第に失われていく様子が見えてきた。リーダーが、対話において以前よりも受け身になってしまうのだ。また、彼らの判断力や発言力、存在感がどこで最も価値を発揮するのかを見失ってしまったり、周囲に対してもそれを明確に示せなくなったりする可能性がある。時が経つにつれ、そうした状態が彼らの貢献度を下げ、リーダーとしてのブランドを損なっていくのを、筆者は目の当たりにしてきた。

 主体性を確保するには、まずリーダーの判断力や発言力、存在感が成果の質を左右する領域を見極める必要がある。筆者がこれまで観察してきた経営幹部の中で、特に成功している人たちは、目の前のタスクに応じて、以下に示すAIとの4つの協働モードのうち、どれが最も適しているかを判断していた。最初の3つは、人間ならではの貢献を中心に据えるべき局面に対応している。4つ目は、低リスクの業務をAIに移管することによって、より深く思考するためのキャパシティを生み出すものだ。

4つのモードを活用する

 このアプローチを活用して、リーダーとしてのあなたの主体性を確保する方法を、筆者がアドバイスした経営幹部の実例とともに紹介する。

リーダーが主導するモード: AIに意見を求める前にみずから判断を下すことによって、判断力を守る

 リーダー主導の業務では、判断力が求められる。判断力とは、データだけではビジネス上の問題を診断・解決することができない時、何が重要かを判断する能力だ。また、どの選択肢もコストを伴う場合に、組織がどのトレードオフなら耐えられるか、どの程度のリスクなら許容できるかを選択することも、そこに含まれる。

 AIはこの判断の周辺部分をサポートすることができる。たとえば、資料の要約や選択肢の比較だ。しかし、AIはこれまでの経緯、政治的事情、関係者のパーソナリティ、制約、影響のすべてを理解することはできないので、リスクが高い状況では、リーダーがみずから対処し、人々に説明しなければならない。だからこそ、何が問題なのかを見極め、そもそもその問題をどのような枠組みで捉えるかを決めるのは、依然として人間の仕事であるべきだ。その枠組みは、人々がどの解決策を真剣に受け止めるかなど、その後のすべての段階に影響を与える。

 筆者のクライアントの一人であるデータ・情報企業の事業部門の責任者は、まさにそのような経験をした。彼は四半期ごとにチームで会議を開いて、利益率を見直し、企業全体の収益性を牽引する要因を分析していた。彼はある時から、事前にAIを使ってデータを要約させるようになった。そのおかげで、ぶっつけ本番でデータを読むのではなく、数字を熟知した上で、各会議に臨めるようになった。