競合企業の戦略を「求人情報」から読み解く方法
Jessica Klaus/Stocksy
サマリー:競合他社の次なる動きを予測する際、財務諸表やプレスリリース以上に信頼性の高い先行指標となるにもかかわらず、多くの企業が見落としているものがある。それが求人情報だ。求人情報には必要な職種やスキル、勤務地などが具体的に盛り込まれるため、公式発表に先駆けて企業の将来的な戦略投資を捉えられる。本稿では、採用データをコンペティティブ・インテリジェンス(競合情報)として活用し、競合の戦略的意図を見抜くための実践的なアプローチと分析上の注意点について紹介する。

競合他社の戦略は、求人情報から見抜ける

 多くの企業は、競合他社の次なる動きを予測するために膨大なリソースを費やしている。決算説明会を分析し、プレスリリースを追いかけ、市場調査を委託し、顧客へのヒアリングを行う。しかし、戦略的意図を示す最も明確で、しかも入手しやすいシグナルの一つを見落としている企業は少なくない。それは、競合企業がどのような人材を採用しようとしているか、だ。

 アマゾン・ドットコムを例に挙げよう。2019年、同社はひそかに衛星エンジニアや関連する技術専門職の求人を多数出し始めた。その数カ月後、世界規模の衛星インターネット網を構築するという野心的なプロジェクト「プロジェクト・カイパー」を発表した。アップルも同様だ。2018年初め、分析会社シンクナムは、アップルのデザイン関連の求人がほぼ倍増し、モーションサイエンティストや光学エンジニアなどの専門職がまとまって募集されていることに気づいた。アップルは未発表製品について公には何も語っていなかったが、こうした求人は、拡張現実(AR)やウェアラブルコンピューティングへの投資を進めていることを明確に示していた。

 どちらのケースでも、最も大きな影響を受けたのは既存の事業者だ。アマゾンは衛星インターネット事業に参入したことで、スペースX傘下で急成長していたスターリンクだけでなく、ビアサットやヒューズネットといった事業者と直接競合することになった。アップルは、ARの能力を強化したことで、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、マジック・リープが何年もかけて進出を目指してきた領域に参入することになった。これらの企業にとって、最終的な公式発表は、一夜にして新たな競争の火ぶたが切られたように感じられたかもしれない。しかし、採用活動には何カ月も前からその兆候が表れていた。

 これらの事例から重要なことがわかる。企業が新製品を発売したり、新市場に参入したり、新しいテクノロジーを導入したり、新たな能力を構築したりする前には、ほぼ例外なく人材が必要になる。そのため、採用の意思決定を見れば、企業が将来どこに重点を置こうとしているのかを窺い知ることができる。それも、他の情報源でそれが明らかになるより、はるか前に、だ。

 採用担当者にとって求人情報は人材獲得の手段であり、求職者にとっては仕事を見つける手段だ。しかし、これをコンペティティブ・インテリジェンス(競合情報)の情報源と捉えている企業の戦略担当者はほとんどいない。先進的な投資家はずっと前からこのことに気づいていた。ヘッジファンドやその他の資産運用会社は現在、構造化された求人データを日常的に分析し、決算発表や規制当局への届け出に先立って、事業拡大や縮小、戦略的転換の兆候を見つけ出している。一方、多くの企業のコンペティティブ・インテリジェンス部門は、こうした身近な情報源をいまだ見過ごしている。

 筆者はこの問題を5年間にわたり研究してきた。共著のワーキングペーパーでは、買収対象企業の求人情報から買収側が何を読み取れるのか、また、組織の戦略的方向性を測るために従業員データをどのように活用できるかを検証している。大規模な採用データを用いて、企業自身が発表する前にその企業がどこへ向かおうとしているのかを把握した。筆者はこの研究を通じて、採用データは企業が実際にどの分野に力を入れようとしているかを知るうえで、最も信頼できる情報源の一つであると確信するようになった。なぜなら、求人情報は投資家や報道機関を説得するためではなく、人材を獲得するためにつくられているからだ。

コンペティティブ・インテリジェンスの盲点

 従来のコンペティティブ・インテリジェンスの手法は依然として有用だが、その多くは過去の事象を振り返るものだ。財務諸表からは、競合企業がどこに投資したかがわかる。プレスリリースからは、企業がステークホルダーに何を伝えたいかがわかる。顧客のフィードバックからは、過去の施策が市場でどう受け止められているかを把握できる。

 マネジャーはこれらの情報源から、競合企業がすでに何をしたかを理解することはできる。しかし、次にどう動くかを読み解くには十分とはいえない。

 その空白を埋めるのが採用データである。企業がどこに経営資源を投じようとしているかが、採用の段階ですでに表れるからだ。機械学習エンジニアを募集している企業と、営業担当者やサプライチェーンの専門家を募集している企業とでは、目指している未来が異なる。新しい国で規制対応の専門家を採用している企業は、その市場への参入を準備している可能性がある。サイバーセキュリティ関連の採用が急増していれば、顧客が目に見える変化を認識するはるか前から、デジタルインフラへの投資を進めていることを示しているかもしれない。

 決算説明会や企業発表とは異なり、求人情報は必要な人材を確保するという明確な目的がある。要件を満たす候補者を引きつける必要があるため、スキル、技術、職務内容、戦略的優先事項について、非常に具体的な情報が盛り込まれていることが多い。

 また、他の手段ではほとんど情報を開示しない企業についても、求人情報は入手可能だ。非上場企業やベンチャー企業、海外の競合企業は、事業計画についてわずかしか情報を開示しないことがある。それでも、その多くは求人を公に出している。