調査に見る経営幹部の意思決定の問題点

・意思決定会議における経営陣の実際の振る舞いは、効果的な経営幹部の行動に求められる態度や規範と一致しないことが多い。

・経営幹部の発言と行動の間には、往々にして隔たりがある。それにより率直さや信頼、代替案の効果的な模索、イノベーション、さらには組織における柔軟性に対する障害が生まれている。

・このような障害は、日常的な会議より重要な意思決定会議の場でさらに有害なものとなり、無能な幹部よりも、有能な幹部たちをいら立たせることになる。

・単なる知的訓練ではこのような障害を打破することはできない。むしろ経営幹部は、自分の行動についてのフィードバックや、行動の中での気づきを深める必要がある。この目的のためにはある種の問いかけが有用だ。また会議の録音テープを再生して分析するのも役立つ手段であることがわかっている。さらに、ラボラトリー教育のプログラムも有効である。

 以上は、主要な企業6社の経営幹部の意思決定に関する調査から得られた知見の一部である。これらの知見はあらゆる経営トップにとって非常に重要な意味を持つ。なぜなら、組織によってはここに述べたような弱点に左右されないところもあるだろうが、程度の差こそあれ、あらゆる集団がこのような問題を抱えているはずなのだ。

 本稿では、この研究成果について詳細に述べるとともに、それが、あらゆる階層の経営幹部にもたらす意味を検証する。なお、調査対象企業とこの研究に用いた調査手法については、囲み「この調査について」を参照してもらいたい。

この調査について

 ここでは、次の6社を研究対象とした。(1)従業員4万人規模のエレクトロニクス会社、(2)従業員4000人規模の画期的な新製品の製造販売会社、(3)従業員3000人規模の大手R&D会社、(4)従業員150人規模の小さなR&D組織、(5)従業員400人規模のコンサルタントリサーチ会社、(6)従業員4000人規模の重機メーカーである。

 本稿で報告する調査結果の主な焦点は、6社に所属する165人の経営幹部の行動様式である。彼ら経営幹部は、取締役会メンバー、経営会議メンバー、シニアマネジャー層、そして数人のミドルマネジャーである。

 265を超える意思決定会議を具体的な研究対象とし、約1万ユニットの行動を分析した。会議の議題は投資の決定、新製品開発、製造上の問題点、マーケティング戦略、新規の価格設定の方針、経営管理上の変更、人事問題と多岐にわたった。10を除くすべての会議で記録を取り、研究目的のため、この10の会議は録音テープのみで(経営幹部とは面会することなく)分析した。他のすべての会議も録音されたが、分析は後日行われた。

 録音テープを分析するための主要な手段として、意思決定会議を採点する分類システム[注]を用いた。簡単に言えば、経営幹部の行動は以下の頻度に基づいて採点される。

(1)自分のアイデアや感情を率直に述べ、またそれに責任を持っている。

(2)他者のアイデアや感情を受け入れている。

(3)アイデアや感情について、実験的な試みやリスクテイクをする。

(4)他者がみずからの責任を引き受け、率直に、そしてリスクを取れるよう、支援する。

(5)責任を引き受けない、心を開かない、リスクを取らない、などの他者の一連の行動に対して支援しない。

 2つ目の採点システムは、経営幹部の文化規範について定量的な指標をつくり上げるために開発された。これには、肯定的な規範と否定的な規範が存在する。肯定的な規範は次のようなものである。

(1)個性、特に各人のアイデアや感情の独自性に注目し、それを尊重する行動を評価する。

(2)他者のアイデアや感情に配慮する。

(3)他者のアイデアや感情を信頼する。

 否定的な規範は次のようなものである。

(1)他者のアイデアや感情に従属する。

(2)他者のアイデアや感情に敵対する。

(3)他者のアイデアや感情に不信の念を抱く。

 会議中の観察に加えて筆者らは、一人ひとりの経営幹部に少なくとも1回の半構造化インタビューを実施した。これらのインタビューも録音され、文書化され、分析の基礎データとなった。

【注】
このシステムについての詳細な議論については、拙著を参照。Organization and Innovation, Richard D. Irwin, Inc., 1965.(未訳)

言動の乖離

 経営トップによれば、意思決定行動の有効性は、企業の経営システムにおけるイノベーションとリスクテイク、柔軟性、信頼の程度に左右されるという。ここでリスクテイクとは、経営幹部がその自負心を危うくするようなあらゆる行動と定義する。たとえば、ある経営幹部が経営会議の意見と対立する、あるいは誰か(とりわけ組織のトップ)に対してその人物の組織への悪影響について伝える、または何百万ドルもの巨額の新規投資を求める、などがこれに該当する。

 筆者の研究では、95%近くの経営幹部が、組織の良し悪しは上に立つ人物の能力によって決まると述べており、自分や周りの人材の能力を開発していかなければならない責任の重要性を、繰り返し指摘している。

 また、前述の動機づけやリスクテイクなどの資質は、経営システムを成功させるうえで重要な特性だと考える者も多かった。しかし、最も難しく、複雑かつ重要な問題として挙げたのは、何といっても「人材の問題」だった。

 つまり経営幹部は、一人ひとりの貢献が最大化され、イノベーションやリスクテイク、柔軟性、信頼が最高に機能する経営体制を全面的に支持している。それにもかかわらず、彼らの実際の行動は、あまり効果的とはいえない意思決定プロセスを生み出しがちである。