「橋渡し役」の存在がイノベーションの成否を分ける

 イノベーションはますますパートナーシップに依存するようになっている。複雑性と専門性が高まり、AIなどの技術によってワークフローや製品ポートフォリオが再構築されるにつれて、単独のチームや単体企業だけではアイデアをプロトタイプからスケーリングへと移行させるために必要な組織能力、ツール、権限を兼ね備えられなくなっているのだ。

 ある経営幹部が筆者らに語ったように、組織は「提携するか、滅びるか」しかない。とはいえ、主導権を分かち合うのは難しい。イノベーションがグループ間や企業間の協業に依存するほど取り組みは停滞し、悪くすれば成果を挙げようとしたパートナーシップが崩壊して、失敗に終わる可能性が高まる。

 ある大手消費財企業で、高い潜在能力を持つサラという人物が、大きな注目を浴びる成長プロジェクトの責任者に選ばれた状況を考えてみよう(説明のため、筆者らの調査研究に基づき複数の人物を合成した架空の事例である)。ビジネスストラテジスト、最先端のデジタル人材、AI人材で固めた彼女のチームは、有望な新製品のプロトタイプを開発し、テストの結果も上々だった。そして、3カ月かけて精力的に取り組んだのち、ITやマーケティングなどの実装段階に関わる各部門の同僚たちに得意満面で製品を引き渡した。

 ところが、それを受け取ったチームは苦戦を強いられた。その製品にはさまざまな先進技術が使われていたが、社内のレガシーシステムとの互換性がなく、馴染みのない顧客セグメント向けに設計されていたのだ。加えて、急速に進化する市場で足場を築くには、そのイノベーションは漸進的すぎるのではないかと、一部の経営陣から危惧する声も上がった。一度は有望視された取り組みは、サラたちのチームと会社がリソースを投じたかいなく、中止に追い込まれそうだった。

 筆者らは、この種の挫折を何度も目にしてきた。というのも、多様な優先順位、組織能力、制約条件に直面する中で、イノベーションのスケーリングにはパートナーたちの協働が求められるからだ。新製品チームは実験を奨励され、法務部門は規制要件の遵守を重視し、IT部門は運用上の信頼性という観点から考え、上級幹部は説得力のあるビジネスケースを要求する。外部との協働ではギャップがさらに拡大する。スタートアップにとって、時は金なりだ。ゆえに、スピードを重視する。その提携相手である大企業が重視するのは信頼性だ。すると、リスクを軽減するために慎重なペースで動くことになる。

 実際、新製品や新サービスの提供、あるいは効率性向上や売上成長に向けた新技術の実装を阻む要因について、経営幹部らに尋ねてみると、組織の境界を超えた協働がいかに骨の折れることかを説明してくれる。複数のパートナーをまとめても、せいぜい折衷案や妥協案で終わり、平凡な成果しか出せないこともある。ひどい時には、パートナー間の足並みがずっと揃わず、根深い対立が起きたり、冷酷な権力闘争に発展したり、勢いが減速したり、信頼が損なわれたりする。そして、機会は消滅し、投資は無駄に終わる。

 このような問題に対処するため、組織の公式構造に過度に頼ることは多い。専任のプロジェクトマネジャーや機能横断型チームを指名したり、境界を超えて協働を調整するイノベーションラボを設立したりするのだ。

 知的財産契約等のガバナンス契約について、外部の協働相手と調整するのは多大な時間を要する。しかし、イノベーションでは基本的に、アイデアの発案者だけでなく関係者全員が実験と学習(リスクを取ることが求められる活動)を行う必要がある。人は信頼できない相手と一緒にリスクを取ったりしない。また、仕組みづくりに励んでも、信頼構築に不可欠な社会的つながりは生み出せない。

 そこで、別の方法がある。イノベーションで成功を収めている企業を対象にした筆者らの研究から、我々が「ブリッジング」(橋渡し)と呼ぶ特定のリーダーシップ形態が境界を超えた協働を効果的に推進していることが明らかになっている(橋渡し役〈ブリッジャー〉の概略は「共創を実現するリーダーシップ」DHBR2023年2月号[注1]を参照。筆者らの共著Genius at Scale[注2]でも、その役割を詳しく解説している)。橋渡し役は感情的知性と文脈的知性を強みとする。それによって、イノベーションを推進するうえで欠かせない要素であるパートナー間の信頼、影響力、コミットメントを構築することができるのだ。