これからのリーダーの役割
マスターカードのCEOに、アジェイ・バンガが就任した2010年のことである。彼は、決済業界に破壊的な変化が迫っていることに気づいていた。だが、グローバル決済市場のうち、すでに電子化された15%の市場でシェア争いを続けようとは考えなかった。その代わりに、依然として現金や小切手で取引されていた85%の市場に専念し、自社の成長を実現することに決めた。
正規の金融システムへのアクセスができない個人や小規模事業者に、その手段を提供する「金融包摂」(ファイナンシャル・インクルージョン)がビジネス上の重要課題であると同時に、果たすべき社会的責任でもある。バンガはそう考えた。その実現のために、人材や顧客、市場、テクノロジー、政府を取り巻く新しいマインドセットと行動が必要だった。
マスターカードの顧客基盤はよりいっそう多様化していた。イノベーションを起こすために必要なのは、既存のコア事業を拡大して多角化するとともに、新規事業を立ち上げることだった。しかしながら、当時の従業員はそう考えていなかった。将来の会社の成功にとって重要だと考える27の要素のうち、「イノベーション」は、26番目の低さに位置付けられていた。