部下から信用されないリーダーがやりがちな無意識の行動
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サマリー:世界のリーダー育成の大家の多くが、リーダーシップ開発において「自己認識」が最も大切だと述べている。自分のことなら知っていると思いがちだが、往々にして、他者から見た自分は、自分の認識とずれがちである。寓話『北風と太陽』をモチーフに、悩めるマネジャーとメンターの対話とともにリーダーシップ論を学ぶ連載、第10回。

共感を示しているつもりでも、手応えがないのはなぜか

 どうすれば、部下は自分から行動を起こしてくれるのだろう。自発性はリーダーシップによって引き出されるというが、その際に肝となる「語る人への信用」、すなわちリーダーに対する信用は、EQを磨くことで、みずから築いていけるものだというのが前回の学びだった。

 しかし、その有効性については半信半疑だった。たとえば、EQの因子の一つに「共感」がある。私も部下の話を傾聴し、共感を示しているつもりだが、いま一つ手応えがない。人がついてきている実感はまるでなかった。

 そんな私に、メンターは問いかけた。

「その共感、相手に届かない理由は何だと思う?」

「やはり、相手の状態にもよるのではないでしょうか。斜に構えている人たちにいくら共感を示したところで、受け入れてもらえないと思います」

「なるほど。ところで、私の話、つまらないかしら」

「え、とんでもないです!」

 メンターは笑顔で続けた。「気づいている? あなた、私が話している時、いつも難しそうな顔しているわよ」

「え?」

解説:「他者からどう見えているか」まで含めて自己認識

 なぜ、伝えているつもりの気持ちが、相手に届かないことがあるのでしょうか。

 心理学者のメラビアンは、言葉の内容、声のトーン、表情や仕草──この3つが食い違った時、人は言葉よりも声や表情から受け取る印象(非言語の情報)のほうを信じる傾向があることを、実験で示しています[注1]。

 たとえば、むっつりした顔やこわばった声で「その案、いいですね」と言われても、実は本音は違うのではないかと訝しく思いますよね[注2]。うんうんと頷いていれば、相手は「しっかり聞いてくれている」と感じるでしょうし、そっけない顔をしていたら、どれだけ一生懸命聞いていたとしても、「興味がないのかな」と相手を不安にさせてしまう恐れがあるということです。

 筆者も研修講師という職業上、初対面の方々の前で登壇しますが、受講生の「見た目」はさまざまです。こちらと目を合わせず興味がなさそうにしている人が、一番ノートを取っていることもありますし、むすっとした顔の人が、一番質問をしてくることもあります。表情や態度だけを見れば興味がなさそうなのに、実は誰よりも一生懸命受講していた、なんてことはザラにあります。

 このように、見た目と中身は、ずれがちです。しかも、やっかいなことに、自分の「見た目」は自分には見えないのです。

 この「自分には見えない自分」も含めて自己の認識を整理したのが、心理学者のジョセフ・ルフトとハリントン・インガムが提唱した「ジョハリの窓」です[注3]。ジョハリの窓では、自分と他者の視点を組み合わせて、自分自身を4つの領域に分類します。

図表
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・開放の窓:自分も他人も知っている自分。自己開示ができている領域。

・盲点の窓:自分は気づいていないが、他人は知っている自分。他人の目を借りてしか知り得ない自分。

・秘密の窓:自分は知っているが、他人は知らない自分。自己を開示できていない領域。

・未知の窓:自分も他人も知らない自分。誰の目にも触れていない可能性の眠る領域。

 さまざまな面から深掘りしたい奥深いモデルですが、今回とりわけ注目したいのは「盲点の窓」です。どれだけメンバーに共感していても、表情や声色が「早くこの話を終わらせたい」という信号を発していたら、あるいは、相槌ひとつ打たずにパソコンを見つめていたら、部下は直感的に「この人にとって私は大切ではないのだな」と感じてしまう。相手への共感は、相手に伝わって初めて「相手の感情を受け止めている」ことになるのです。

 他者から見た自分は、自分の認識とずれることがある。大切なことは、EQでも第一の因子とされていた自己認識力なのです[注4]。

 世界のリーダー育成の大家の多くが、リーダーシップ開発において「自己認識」が最も大切だと述べています。しかし、その言葉だけポンと紹介しても、研修の受講生の皆さんは、何をいまさら、という顔をします。その場で簡易アンケートを取り、「自分のことを何パーセントくらい知っていますか?」と尋ねると、いつも平均80%ほどに達します。皆、自分のことは、おおむね知っていると感じているのです。

 しかし、ジョハリの窓とともに、「他者からどう見えているか」まで含めた自己認識の奥行きを紹介すると、「案外、自分のことを知らないかもしれない」と考え始める人が増えてきます。自分を知ろうとすることは、自身のリーダーシップを考え始める出発点となるのです。

 最後に自戒も込めて。私たちは、意外と「しているつもり」に陥りがちです。感謝しているつもり。褒めているつもり。大切に扱っているつもり。でも、それは本当に相手に伝わっているのでしょうか。そこまで考えたいものです。ありがとう、と思っている私やあなたは、相手からどう見えているのでしょうか。

* * *

 メンターから、「私の話、つまらないかしら」と聞かれたのはこのことだったのか、と腑に落ちた。私は、一生懸命話を聞いているつもりだった。でも、難しそうな顔をしているがゆえに、話し手からは、つまらなそうと映っていたのだ。自分の内面は、振る舞いに乗せない限り、相手に伝わらないことがある。言われてみれば当たり前のことを、きちんと意識できていなかった。

 だとすると、私の共感がチームメンバーたちに伝わっていなかったのも、同じ理由だったのかもしれない。メンバーと話している時、眉をひそめて聞いていたのであれば、メンバーの目には「自分の話にあまり興味のなさそうな上司」と映る。いくら私が、心の中では太陽のように傾聴しているつもりでも、部下から見れば、太陽どころではない。むしろ、北風とさえ映ることもある。

 他者からどう認識されているか、そこまで含めての自己認識。その概念がすっぽり抜けていた自分が空恐ろしくなった。

 落ち込む私を見て、メンターは一つの事例を紹介した。

・あるグローバル企業で経営幹部たちを一堂に集めたリーダー育成の場があった。カリスマ経営者は、その様子を少し離れた後ろのほうでそっと見ていた。幹部たちはそれぞれ意欲的に参加していたが、講師によれば、最初から最後まで一番大きく頷いて聞いていたのは、後ろで見ていたカリスマ経営者だった。

「世間に知られた大物経営者よ」とメンターは補足した。「それほどの人が、誰より大きく頷いて相手の話を聞いていたの。それさえもせず、自分には人間的魅力がないって嘆くのは、もったいない気がするわ。EQが高い人は、相手にきちんと伝わるように振る舞っている、ということよ」

 人間的魅力、人に好かれるかどうか、それらは、自分には縁遠い先天的なものとして、羨むだけだった。好意や善意は持つことが大切で、相手に伝わっているかどうかまで気にかけていなかった。何よりも、自分が他者からどう認識されているかまで想像を伸ばしていなかった。

 結局、基本の基本もできていなかった。知らなかった。そんな自分に呆然とした。

「まずは、大きく頷くことから始めてみるのもいいかもね」とメンターは微笑んだ。

「リーダーシップの第1ステップ(方向性の設定)と第2ステップ(人の向きを揃える)はもう大丈夫ね。次の第3ステップは何だと思う?」

【注】
1)以下の論文を参照し、筆者なりに説明を加えた。
Albert Mehrabian & Morton Wiener, "Decoding of Inconsistent Communications," Journal of Personality and Social Psychology, 6(1), 1967 および Albert Mehrabian & Susan R. Ferris, "Inference of Attitudes from Nonverbal Communication in Two Channels," Journal of Consulting Psychology, 31(3), 1967. 
2)メラビアンの法則はあくまで一定の条件下についての実験結果であり、あらゆる場面に適用できる数字ではない。その点を誤解し、あたかも「見た目がすべて」のような誤用をするケースが散見されるため、本稿では数字については特に触れていない。
3)「ジョハリの窓」は、心理学者のジョセフ・ルフトとハリントン・インガムが1955年に考案した、対人関係における認識のモデル。その名は、二人のファーストネーム(Joe+Harry)に由来する。Joseph Luft, "The Johari Window: A Graphic Model of Awareness in Interpersonal Relations," Human Relations Training News, 5(1), 1961, pp.6-7. なお、「開放」「盲点」「秘密」「未知」の4つの窓の名称は日本で慣用となっている訳語であり、原文はそれぞれ "area of free activity" "blind area" "avoided or hidden area" "area of unknown activity" 。
4)Daniel Goleman, "What Makes a Leader?" Harvard Business Review, November-December 1998. (邦訳「EQが高業績リーダーをつくる」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2000年9月号)

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