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頭が良ければ、仕事ができると言えるのか
部下の自発性をいかに引き出すかは、多くのマネジャーの悩みどころだが、それはリーダーシップによって引き出されるという。その第2ステップが「ビジョンに向けて人の向きを揃える」ことだった。対話を尽くして、多様な個性はそのままに、一人ひとりがみずからの意志で同じ方向に向かう状態をつくっていく。
その際に問われるのは、話の中身だけではない。これまでの実績、評判、言葉と行動の一貫性、すなわち「語る人への信用」だと、コッター教授は説いていた。
しかし、"信用"と言われた時点で、そこには生まれ持った人間的魅力のような、結局は努力ではどうにもならないものが入り込んでいるのではないか。そのような疑問を抱く私にメンターは問いかけた。
「リーダーシップに必要な、再現性のある人間的魅力って、何だと思う?」
「やはり、『仕事ができる』ようになることでしょうか。それなら、研鑽すれば誰でも高められるはずです」
「仕事ができる、というのは、具体的にどんな力のことかな」
「ビジネスの理解とか戦略性、それを支える地頭の良さというか、処理能力というか。いわゆる、頭のキレの良さみたいなことでしょうか」
「頭が良ければ、本当に仕事ができると言える?」
解説:職場におけるEQの「5つの因子」
ここでは、EQ(心の知能指数)という概念を紹介します。EQとは、自分の感情を理解・制御し、他者の感情に共感しながら、対人関係を円滑に進める力です。たとえば、部下がレポートを提出してきた時、サッと見て間違いを見つけるのはIQ(頭の良さ)から来る仕事のスキルですが、笑顔で受け取り、十分に労いながら寄り添うのは、EQによる仕事です。
筆者は、企業の管理職の研修で、「最高の上司候補」を思い浮かべてもらい、その人の「良いところ」をなるべくたくさん洗い出して、1枚1枚、付箋に書き出してもらうワークをします。職務上知り合った人でなくてもOK。学生時代の先生、先輩、同級生、あるいは、後輩、家族や親戚の方でも構いません。よろしければ、皆さんも一人、思い浮かべて、その人の「良いところ」を、頭の中で挙げてみてください。
そして、書き出した「最高の上司候補」の良いところの付箋を、IQ側(仕事のスキルも含む)かEQ側かに振り分け、ホワイトボードに貼ってもらいます。すると、「頭脳明晰」「本質的な解を示してくれた」というIQ側の付箋もちらほらありますが、大半はEQ側に集まるのです。
たとえば、「親身になって話を聞いてくれた」「ちょっと落ち込んでいた時、さりげなくご飯に誘ってくれた」「誰も見てくれていないと思っていた下準備や細々とした仕事に気づいて労ってくれた」。その偏りは、鮮やかなほどです。あなたが挙げた「良いところ」は、どちらに偏っていたでしょうか。
当然のことながら、職場では相応のIQは必要となります。しかし、それだけで人はついていかない。EQという概念を広めたダニエル・ゴールマンは、優れたリーダーたちは一人残らずEQが非常に高いとし、IQや仕事の技術はあくまで入り口の要件、すなわち「最低限の能力」にすぎないと述べています。そのうえで、こう言い切ります。「EQがなければ、世界最高の訓練を受け、切れ味鋭い分析力と、尽きることのないアイデアを持っていたとしても——偉大なリーダーにはなれない」(筆者訳)[注1]。
EQが高い人とは、他者の感情を丁寧に扱う人です。感情の動物とも言える私たちからすれば、それは、私たちを大切に扱ってくれる人に他なりません。そんな人についていきたいと思うのは、当然のことでしょう。
幸いなことに、EQは、摩訶不思議な力ではありません。その中身は、研究によって言葉にされているのです。ゴールマンは、職場のEQを、(1)自己認識、(2)自己統制、(3)モチベーション、(4)共感、(5)ソーシャルスキルの5つの因子で説明しています[注2]。
一見バラバラにも見える5つの因子を、血の通った一人の人間像として掴むために、あえて筆者なりにつなげてみると以下のようになります。
(1)自己認識が高いということは、自分の真の目的や価値観を深く理解し、自分の言動が他者にどう影響するかを知っている、ということ。だから、その目的のために、(2)自己統制、自分の感情をコントロールすることができる。そして、真の目的が見えているからこそ、それを達成しようという想いが、(3)モチベーションとなって内側から湧き続ける。そうやって自分の人生の舵を自分で握れていれば、他人に(4)共感できる。優しくなれるし、寄り添える。さらに、目的の達成には周りの協力が欠かせないと知っているから、みずから積極的に、(5)ソーシャルスキル、人とポジティブな関係を築いていく、というわけです。
ビジョンを掲げ、「人の向きを揃える」時には、語る人への信用が問われます(エトス)。その基盤とも言える人間性は、カリスマのような先天的なものというよりは、EQという再現性のある人間的魅力──みずから築いていける魅力なのです。
* * *
「己を知り、その目的を突き詰めて、それを核に自分を燃やしていく。そして、周りに共感して優しく接していくって、まさに太陽みたいじゃない?」とメンターは微笑んだ。「何より、EQは再現性がある。心掛け次第で太陽のようになれる、ということよ」
「魅力は、みずから手に入れることができるんですね」
「そう。こんな話もあるぐらいよ」と言ってメンターは一つ例を挙げてくれた。
・あるスキーの初心者クラスでの話。参加者の一人が、インストラクターの説明を前のめりになって、大きく頷きながら聞いていた。その熱心さに気をよくしたインストラクターは、やがてその参加者のほうばかり見て話すようになり、傍目にはえこひいきと取れる言動すら出始めた。
「インストラクターがえこひいきをしたらまずいですよね」と私は苦笑した。
「さすがにね。でも、自分の話をしっかり聞いてくれる相手を邪険にする人はいないよね」
ふと、いまのチームの会議の光景が目に浮かんだ。
部下の一人は会議中、私の話を無表情で聞いている。PCで何やらカタカタと打っていて、別の仕事でもしているのかとさえ思ってしまう。実際にはメモを取っているようなのだが、こちらの話を聞いていないかのようで、心理的な距離ができてしまう。
一方、時折こちらに目を向けながら、うんうんと頷いて聞いている人もいる。それだけで自分が肯定されている気がするし、心理的に近しくも感じる。その人が何か困っていたら、助けてあげたいとさえ思ってしまう。
「頷く」という単純な行為一つで、相手からの印象は大きく変わる。それだけで周りの人々が少しでも味方になってくれるのであれば、EQとはたしかに、「身につけられる」人間的魅力なのだろう。
「とはいえ、私だって部下の話を傾聴していますし、共感を示しているつもりです。なのに、周囲に受け入れられている気があまりしません。何というか、手ごたえがないんですよ」
メンターはまっすぐ私を見て言った。「その共感、相手に届かない理由は何だと思う?」
【注】
1)"Without it, a person can have the best training in the world, an incisive, analytical mind, and an endless supply of smart ideas, but he still won't make a great leader." Daniel Goleman, "What Makes a Leader?" Harvard Business Review, November-December 1998. より、筆者訳。なお、同論文の邦訳は「EQが高業績リーダーをつくる」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2000年9月号。
2)Daniel Goleman, "What Makes a Leader?" Harvard Business Review, November-December 1998. より、筆者訳。同論文の邦訳は「EQが高業績リーダーをつくる」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2000年9月号。
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