ビジョンへ「人の向き」を揃えるための説得力の3要素
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サマリー:ビジョンが決まれば、あとは計画を立て、役割を分担し、明確な指示を出せばよい――マネジメントに慣れていると、ついそれでうまくいくと思いがちだ。しかし、物事を変えていくうえでは、それだけでは人は動かない。まずは同じ方向に向けて「人の向き」を揃える必要がある。寓話『北風と太陽』をモチーフに、悩めるマネジャーとメンターの対話とともにリーダーシップ論を学ぶ連載、第8回。

具体的なアクションに踏み出す前に

 リーダーシップの第1ステップ「方向性の設定」として、前回、力を持つビジョンに共通する2つの要素について学んだ。実利で頭を納得させる「したたかさ」と、心を動かす「正しさ」を兼ね備えたビジョンは、皆が意欲的に同じ方向に走り出すための、希望の旗印となりうる。そこに、自身の仕事を意味づけることができるのだ。

 そのうえでメンターは「次の第2ステップは、何だと思う?」と問いかけてきた。そこで、私はこう考えた。

「方向性を達成できるように、役割分担する、明確な指示を出す、といったことでしょうか。具体的なアクションを示さないと、組織はなかなか動かないですよね」

「その答え、マネジメントだったら申し分ないんだけどね。その前に欠かせない大きなステップがあるの」

 メンターはそう言うと、笑顔で説明を始めた。

解説:人の向きをいかに揃えるか

 既存のシステムを回し続けるマネジメントであれば、計画を立て、役割を分担し、明確な指示を出せば、チームはすぐに動き出せるでしょう。コッター教授の整理で言う「計画と予算の策定」、そして「組織設計と人員配置」です[注1]。しかし、変化を起こしていくリーダーシップにおいては、そうはいきません。

 たとえば、漁場環境の悪化に直面した漁村のリーダーが、慣れ親しんだ近海に見切りをつけ、遠洋漁業への鞍替えを決意したとしましょう。「海と共存する生活を次の世代に残す」という胸を震わせるビジョンがあり、儲かる算段を示すことができたとしても、それでも、新しい仕事への不安や生活が大きく変わることへのストレス、慣れ親しんだ技術を捨てて学び直す苦労などが立ちはだかります。立派なビジョンを示すだけでは、やはり人は動けないのです。そこでまず、新しい方向性について皆が腹落ちし、揃って走り出せる状態に持っていく必要があります。マネジメントの第2ステップが「組織設計と人員配置」なら、リーダーシップの第2ステップは「人の向きを揃える」です[注2]。

 ここで注目したいのが、コッター教授がこの行為に align(アライン)という英単語を使っている点です[注3]。unite(一つに溶け合わせる)のように、個々が変容して同化していく言葉ではない。persuade(説き伏せる)のように、相手を言い負かして首を縦に振らせる言葉でもない。一人ひとりの個性はそのままでありながら、ビジョンが示す方向に揃って向かう。属人化を排除しかねないマネジメントの力学とは、対極にある言葉です。筆者はそこに一人ひとりに対する敬意さえ感じます。

 では実際に人の向きを揃えるには、どうしたらいいのでしょうか。

 コッター教授は、ビジョンを人々に理解してもらうことは、マネジメントで短期計画を説明するよりもはるかに大変な、コミュニケーション上の挑戦だと言います[注4]。この点について、アリストテレスが『弁論術』で挙げた人を説得するための有名な3要素--エトス、ロゴス、パトス--で説明しましょう。

「パトス」(聞き手の感情を動かすこと)は、優れたビジョンの要素の1つ、「正しさ」(組織が大切にしている価値観)を、圧倒的なコミュニケーションをもって相手の心に届けることです。漁村の例で言えば、「海と共存する生活を次の世代に残す」ということの意味や、それがなぜ大切なのかを、一人ひとりが自分の仕事、さらには人生に意味づけできるまで話し合う。

「ロゴス」(論理)は、ビジョンのもう1つの要素、「したたかさ」を理屈で示すことです。筆者は変革を志す多くのリーダーに伴走してきましたが、この点が不十分であることは案外多いものです。データの質もさることながら、大切なのは、新たな方向性がどうしても必要だという理屈を、わかりやすい物語で示しているかどうかです。遠洋漁業が一番理に適っていることを、話を聞いた一人ひとりが周りの人に自分の言葉で説明できるくらい、しっかり理解してもらう。