「Game Changer」としてのアナリティクス
――ビッグデータ分析の価値――

ビッグデータによる経営革新
[SAS Institute Japan]

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効率化やコスト削減などの企業努力を重ねて、「これ以上はもう改善できない」という瀬戸際まで来ている日本企業は少なくないだろう。この事態を根本から変え、日本企業を次のステージへと導く鍵を、「ビッグデータ分析」が握っているという。ビッグデータによって競争力を勝ちうるためのポイントを、SAS Institute Japan(SAS)の吉田仁志社長に聞いた。

ビッグデータ活用が
活路を開く

SAS Institute Japan
代表取締役社長
北アジア地域統括責任者
吉田仁志氏

1961年神奈川県生まれ。83年アメリカ・タフツ大学卒業後、伊藤忠入社。スタンフォード大学大学院コンピュータサイエンス研究科で修士号、ハーバード大学ビジネススクールでMBAを取得。ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ日本法人代表取締役社長、ノベル代表取締役社長などを経て、2006年より現職。

 現代は、人、組織、経済、政治、リスクなどのすべてが、境界線を超えて密接につながった世界、hyper-connected worldである。各国での経済、国際情勢の変化、自然災害リスクなどが複雑につながり、その影響がこれまでにない速さで拡大する。

「こうした環境下で、企業が変化を察知して的確な対策を講じるための時間は、ますます短くなっています。この事態を『危機』から『機会』に変えるためには、従来のやり方を少しずつ改善するのではなく、ゲーム・チェンジ(game change)、つまり土俵を変えることが必要です」とSASの吉田仁志社長は指摘する。

 このゲーム・チェンジの原動力となるのが、ビッグデータの活用である。hyper-connected worldでは、いままでは入手できなかった質と量のデータがオンライン上にあふれている。これを活用することで、変化の予兆を察知し、競合に先んじて手を打てる。

 2012年11月のアメリカ大統領選挙で、オバマ陣営はビッグデータを有効に活用したといわれる。サンプル抽出調査や階層単位の傾向把握ではなく、有権者に関する大量のデータを活用して個人の行動や発言を詳細に分析、そこから導かれた洞察に基づくプロモーションで成功を収めた。

 また、国連グローバル・パルスとSASとの共同調査では、ソーシャル・メディア上の会話で醸し出される「雰囲気」を測定して、失業率の増加を数カ月前に予測できるという結論に達した。「雰囲気」に含まれるのは、食料品の買い控え、公共交通機関の利用増加、グレードの低い自動車への買い替えなどに関する会話の増加である。

 いまや、企業も、国も、「まだ起きていないが、起きつつあること」を事前に予測して、早めに対策を講じる時代に突入している。

明日が見え、人を動かす
アナリティクス

 データはいくら量があっても、そのままでは役立つ情報にはならない。従来のBI(business intelligence)は、企業内で起きた過去のことをだれにでも見えるようにする手段だった。それに対し、データを情報に変え、知見を得て、将来予測に基づく意思決定を促すのが、「アナリティクス」(分析)である。そして、膨大なデータをタイムリーに価値ある情報に変えるためには、ビッグデータを処理できるパワーを持つ「ビッグデータ分析」(big analytics)が必要だ。

 たとえばBIでは、「紙おむつを買う客は同時にビールも買う」のように、一緒に購入される商品の組み合わせを過去のデータから見つけ出すことができれば、より効果的な商品陳列が可能になる。

 一方、アナリティクスは、顧客が次にどのような振る舞いをするかを予測したうえで、どんなアクションをとればよいかの選択肢を示してくれる。この商品をこの構成でこの地域で売るとどうなるか、色を変えるとどうなるか、価格を変えるとどうなるか、経営者は何通りものシミュレーションを行い、最適な手を打つことができる。BIと異なり、アナリティクスは将来予測で意思決定の精度を高めるのだ。だからこそ、企業の収益性向上に直結する。

 ただ、データ量が増大するほど、従来のシステム環境では計算処理に時間がかかってしまう。ビッグデータが現実となったいま、多種大量のデータを高速に分析でき、そこから知見を導き出すことのできるシステムが求められていた。

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