コンプライアンスでは対処できないリスク

 2007年、BPのCEOに就任したトニー・ヘイワードは、安全を最優先することを誓った。彼が設けた新しい社内規定のなかには、コーヒーを持ち歩く時には必ずカップにふたをすることや、自動車の運転中は携帯メールを控えることなどがあった。

 3年後、ヘイワードの在任中にメキシコ湾のディープウォーターホライズン油田で爆発事故が起き、史上最悪ともいわれる人的災害を引き起こした。アメリカの調査委員会はこの災害について、経営の失敗により「直面するリスクの特定、その適切な評価、伝達、対処に当たる人員の能力」が損なわれたことを原因に挙げた。

 ヘイワードのケースは、ありがちな問題を反映している。リスク管理は、いかに立派な説明をしてお金をかけても、多数の規則を設けて従業員をそれに従わせれば解決できるコンプライアンス上の問題と見なされることがあまりに多い。これら規則の多くはもちろん理にかなっており、企業に深刻な被害を及ぼしかねない一部のリスクを緩和させるのは確かである。