日本企業が、成長市場で十分に力を発揮できていない。優れた製品開発力やサービスを持ちながら、なぜ苦戦を強いられているのだろうか。日本企業のグローバル化の現状と課題について、グローバル戦略におけるイノベーションや人材育成に詳しい、石倉洋子・慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授が説き明かす。

 

ConnectとDivideに対する現状認識不足

 企業のグローバル化はいまや、当たり前すぎるほどの流れである。しかも流れは加速し、なだらかなわけではない。

 とはいえ、世界経済の成長エンジンがアジア市場であり、アジアやアフリカを含むBOP(Base of Pyramid)市場の潜在的な能力(ポテンシャル)が巨大であることに変わりはない。この成長市場において、日本企業の技術力やブランドへの信頼度は高く、コンビニエンスストアなどのように、サービス分野におけるノウハウも世界に通用するものが出てきている。日本企業が、持続的な成長を求めるならば、世界の成長市場に進出するのは至極当然のことであり、このような意味において、グローバル化を進める以外にオプションはない。

慶應義塾大学大学院
メディアデザイン研究科 教授
石倉洋子
Yoko Ishikura
バージニア大学経営大学院(MBA)修了。ハーバード大学経営大学院(DBA)修了。マッキンゼー社を経て、青山学院大学国際政治経済学部教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。日米英企業の社外取締役、世界経済フォーラムGlobal Agenda Councilのメンバー。専門は、経営戦略、グローバル競争におけるイノベーション戦略、グローバル人材。著書に『戦略シフト』(東洋経済新報社)、『日本の産業クラスター戦略』(共著、有斐閣)、『グローバルキャリア』(東洋経済新報社)など多数。

 にもかかわらず、日本企業は成長市場で、本来の力を発揮できていない。なぜ、そのような事態に陥ってしまっているのだろうか。背景には、日本企業に、「つながり(Connect)」と「断絶(Divide)」という2つの要因についての認識が乏しいことがある。

 インターネットや高速情報通信技術の進歩、航空路線の拡充による移動手段の高速化などにより、国や企業活動の「境界」が消失している。世界で起きた事件は、居ながらにして知ることができるようになった。いわば「世界の見える化」によって、人々は世界とのつながりを深めている。

 一方で日本企業では、これまで意識されなかった断絶が、さまざまなところで発生している。例えば、世代間断絶。現在、50~60歳代のトップが知っている「世界」と、20歳代の若者が知っている「世界」はまったく異なっている。「日本企業は、イノベイティブだった」などと華々しいブランド力の記憶しかないトップと、仕事を始めてから自社のブランド力など実感したことのない若い世代との断絶は大きく、話が通じていない。当然、両者のライフスタイルも知見も、まったく異なる。

 同様に、企業と国の断絶がある。企業は、事業活動と収益の極大化のためにかなり前から、国境を超えて動いている。しかし国は、国内という枠の中でしか動けない。教育と雇用の断絶もある。企業が、これからの人材に求める知識やスキルを、大学教育などが的確、適切に提供できていないのである。

 現状のままでは、ポテンシャルの高い市場に進出したとしても日本企業の成功はおぼつかなく、国際競争に敗れて衰退する事態さえ想定されるのだ。

 

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