最初から世界を視野に入れた
事業展開とリバースメンタリング
日本にも、グローバル化やグローバル人材の育成に力を注いでいる企業がある。
例えば、コマツ。かねてからグローバル人材の育成を地道に続け、トップは、「世界から日本を見られる人材がコマツの将来を決める」と明言している。
そして社歴の若い企業には、大企業など及びもしないグローバル企業がある。DeNAやグリー、楽天、ソフトバンクグループなどだ。これらの企業に共通するのは、「最初から世界を相手にしている」ことだ。つまり、自らのビジネスを国内にとどまらせる気など毛頭なく、最初から世界での事業展開を視野に経営をデザインしようとしている。
そのために、人材採用においても、「どこの国であろうが、この仕事に一番の人材を採る」といったシンプルだが強固な方針を堅持している。例えばファーストリテイリングでは、世界中で優れた人材を採用し、世界の開発現場に散らし、そして世界で販売店を増やしている。
こうした企業で実践されている、グローバル化を進める上で有効な概念が、「リバースメンタリング」である。これは、ジャック・ウェルチが10年ほど前に提唱したもので、若い世代がベテラン世代に学ぶのではなく、上の世代が若い世代に学ぶという逆方向のメンタリングである。
グローバルな事業展開で重要なのは、現地市場に対する深く正確な認識である。現地の人々はどのような感覚で暮らし、どのような商品やサービスを欲しいと思っているのか。“人々の意識の底”にあるものは、マーケティング調査だけでわかるものではない。鋭敏で繊細な感覚を持つ若い世代ほど、現地での経験を積めば、それを皮膚感覚として実感できるだろう。
一方で、ベテラン世代には、トラブルシューティングや社内のリソースを効率的に使う方法など、いくつもの知恵がある。これもまた、現地市場での成長のためには不可欠であり、若い感覚とベテランの経験・知恵がミックスされたところに、「現地事情を十分に理解した上で、新しい価値を提供するコンセプトや、現地の人が求める『経験』を提供する事業活動」が可能になる。
若い人の感覚を共有し、その情報を上手に使い、経営の意思決定に活用していく。それこそが、グローバル経営の基本的な仕組みであり、グローバル人材を育成する基本的な考え方にもなる。
にもかかわらず、ベテランの商品開発者が日本で考えた製品を現地市場に投入しようとする。となれば、現地ではサービスで解決できるものも、余計な機能を付けて使いにくくしてしまう。こんな状態のままでは、現地で必要とされている機能だけを持つ製品を新たな販売方法で使いやすくするというような環境(政策)づくりはおぼつかない。
なぜ日本企業は、アップルの「iTunes」や「iCloud」などのサービスを創造できなかったのか。その疑問は、グローバル化においても突きつけられている。そして、答は極めて明白だ。「顧客を、どこまで本当に知ろうとし、顧客さえも気がついていないニーズにたどり着いているか」。これをものづくりだけでなく、グローバル化とグローバル人材の育成という視点でも検証する必要があるのではないだろうか。
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