逆境がイノベーションの契機となる

 ジョナサン・ブッシュは、産科開業医の役割を劇的に変えるビジネスチャンスを見出した。妊婦が従来の近代医療と、肉体的にも精神的にも癒された状態を目指すホリスティック・ケアも選べる事業を、ビジネス・パートナーとともに立ち上げようとしたのだ。志は高く、この医療サービスへの需要はまたたく間に拡大した。しかし、保険会社の支払いが遅いために手持ち資金が不足した。ブッシュの構想は非効率な手続きとお役所仕事に巻き込まれてしまったのだ。

 しかしこの失敗で、ブッシュは真に革新的なビジネス・アイデアを思いつく。クライアントの医療機関に代わり、煩雑で込み入った手続きを請け負う、医療向けのITサービスである。アテナヘルスというこのサービスは、いまや売上高1億8900万ドルを誇るまでに成長した。

 多くの経営者は、困難な時代には本能的に安全第一を旨とするが、ブッシュのような起業家はそうした経営者とは違う。よくいわれるマキャベリの警句、「危機を逃さずチャンスにせよ」を行動へのきっかけとする。