日本で職場復帰する女性は、「良妻賢母」と固定的な勤務体制は相容れないと気づく。「良き妻」としての役割は、キャリアで要求される仕事と簡単には両立しない。一方で、「賢い母」への社会的期待(見栄えのするお弁当を毎日つくる、遠足に付き添う、放課後に子どもを塾などに行かせる、テスト偏重の教育制度で子どもが落ちこぼれないように、宿題を監督する)は、フルタイムの仕事に匹敵する。

 彼女らの重荷を軽くするには、フレックス・タイム制と計画的な支援が有効だろう。調査への回答者の3分の2は、フレックス制があれば仕事を辞めていなかっただろうと答えた。とはいえ、朝から深夜までの勤務を求められる日本の文化では、フレックス制を根付かせるのは難しい。世論調査サイトのWhat Japan Thinksが2010年に実施した調査では、10人中9人が日常的に残業すると答えている。地震と津波による電力不足が生じた際には、多くの企業は従業員の在宅勤務を奨励した。しかし日本には、同僚と同じだけ遅くまで残っていなくてはならない、という圧倒的なプレッシャーがある。これは、今後も「フェイス・タイム」(実際に顔を合わせる時間)がフレックス・タイムよりも重視され、有能な日本人女性が犠牲を払うことを意味する。

「この問題は、雇用主側が改善しなくてはなりません」と語るのは、ゴールドマン・サックスの人材管理部マネージング・ディレクターであるゲイル・ファイアスタインだ。実際、この問題を重視し、早急に取り組みを始めている例もある。ゴールドマン・サックスは従業員への調査から、保育施設の要望が強いことを知った。これを受け東京支社は、小学校入学前の児童をフルタイムおよびパートタイムで預かる施設を開設し、12歳までの児童に放課後プログラムも提供している。2009年の開設以来、出産後の休職期間の平均は大きく減少している。復職し、施設を利用している女性従業員の80%以上が、おかげで早期復帰が可能となり、後れを取り戻すための時間が短縮されたためにキャリアを順調に歩んでいる、と答えている。

 日本の大手化粧品メーカーである資生堂は、2006年に「カンガルースタッフ制度」を導入した。育児や高齢者の介護によってフルタイムで働けなくなった従業員を支援するために、パートタイムの代替要員を派遣する制度だ。また同社は、残業に対応するための延長保育サービスや、育児または個人的な理由で休職した男女の職場復帰を支援するプログラムを導入している。

 日本には、高度な教育を受けた女性の大きな人材プールがある。大卒者のおよそ半数は女性だ。有能な女性人材を採用し、つなぎ留め、彼女らのキャリアを加速させるために特別な努力をする企業は、最高の人材を引きつけるだろう。それはまた、低迷する日本経済が切実に必要としている景気回復の牽引力となる可能性もある。

原注:本記事は、ローラ・シャービン(CWLP上級副社長およびリサーチ・ディレクター)との共同執筆である。


HBR.ORG原文:Getting Japanese Women Back on Track November 14, 2011

 

シルビア・アン・ヒューレット(Sylvia Ann Hewlett)
非営利の研究機関、センター・フォー・タレント・イノベーション(CTI、前身はセンター・フォー・ワーク・ライフ・ポリシー)の創設者、所長兼エコノミスト。