石倉 百貨店に長くいらしたのですが、そのご経験と今のお仕事から、松村さんご自身はどんなマネジメント・スタイルを目指しているのでしょうか。
松村 小売業は、暦の商売でもあります。卒業・入学、お中元、クリスマス、お正月等々、暦にあわせて、先の先を読んで準備をして実行するのが小売りの真髄です。つまり暦にあわせたすばやい決断と行動力が必要な職場でした。
一方、小売りの現場は、非常に労働集約型でもあります。そこで働く数百人の部下に動いてもらうためには、論理的な説明をすることが必要でした。つまり大勢の組織をいかに一つの方向に向けて走らせるか、それを暦にあわせてスピード感を持って進めるか、がマネジメントに求められていました。
石倉 百貨店は、ファッションだけでも春物から夏物へとめまぐるしく動きますし、シーズンが終われば、次のシーズンに向けて活動しなくてはならない業界だと思いますが。
松村 LIXILのグローバル化は、ミッションの達成とスピード感が、かつての暦にあわせた動きと似ています。また藤森や八木を見ていますと、過去にとらわれず、常に前を見ています。これも、カレンダーに併せて仕事を組み、終わったら次に取り掛かかることを繰り返してきた私には、肌合いのよさを感じます。
石倉 すばやい決定と論理的な説明というのはバランスの難しい課題ではありませんか。
松村 女性は直感的だとか、論理に弱いと言われますが、組織として動いてもらうために論理的な説明は不可欠であり、実際多くの人たちを説得するためには、やはり数字を使ってきちんと話さねばなりません。このことは常に心がけてきました。
石倉 これからの松村さんのミッションについて教えてください。
松村 私はコミュニケーションやCSRを担当していますので、グローバルな視座で地球貢献と事業のあり方を社会に浸透させていくのが責務です。また、商品・サービスの優れた点をお客さまに伝えると同時に、ユーザーの声が経営や商品に反映される体制づくり、つくる側の視点からユーザー視点にしっかりと変えていくための取り組みも私の仕事だと考えています。
石倉 先日、あるシンポジウムで、「女性はリーダーの地位についても、Rのつく仕事に偏りがち」と言う話を聞きました。つまりPR、CSR、HR(Human Resource)です。今はPR, CSRとRのついた業務を担当しておられるのですが、松村さんは、次のステップとして何をなさりたいのでしょうか。
松村 今年度からLIXILの住宅・サービス部門も兼務することになりました。介護事業や不動産事業、それと住宅まわりのサービス事業です。こうした分野で、これまでの経験や信念を形にできればと考えています。
石倉 貴重なお話をありがとうございました。意欲も能力も高い女性たちへのエールをたくさんいただきました。今後のご活躍を期待しています。
【対談を終えて】
松村さんとはこれまで、会合でお目にかかったことはあったのですが、じっくりお話したのは初めてでした。とても印象に残ったのは、「暦に追われる小売の仕事」のご経験から、「常に前へ前へ」というLIXILの経営スタイルがとても合っていて、水を得た魚のように生き生きと毎日仕事をしている様子です。
また壮大なビジョンを掲げてそれを実現すべく、自分たちもタウンミーティングなど地道な活動をするリーダーのいる組織の一員であることの誇りと喜びが、言葉の端々から感じられて、とてもうらやましいと思いました。
松村さんご自身は、とても自然体で、フランクに自身のご経験、企業の現状などをお話されるのが、すばらしいと思いました。
松村さんは、百貨店業界からメーカー・サービス産業へと、共通点はあるけれど、事業活動がかなり違う業界に転職されています。この2つの業界におけるマネジメント・スタイルの共通点・相違点などもうかがって、転職や複数のキャリアが当たり前になりつつある時代を先取りして実践されている方だと思いました。
企業のリーダーグループにこうした経験をお持ちの方がおられるのは、業界にこだわらず、複数のキャリアを考えている若い人たちにとって、とても心強いと思います。
ビジョンやマネジメント・スタイルを共有し、住生活産業のグローバル・リーダーへという壮大な変革の途上にある企業のリーダーとしての緊張感、エキサイトメントが、私にも伝わってきて、新たなエネルギーが沸いてくるような対談でした。松村さん、ありがとうございました。