オープンに開示される個の能力
個を軸にした仕事へ
石倉 ところで杉本さんは、どうしてリンクトインの事業に興味を持たれたのですか。
杉本 大学卒業後に入社した通信会社で人事部に配属になり、社員の職種と待遇などを客観的に見られるような業務を任されました。大変優秀な先輩の待遇を見て、「30歳で、これだけの待遇に到達するのか。では自分が8年後に、このレベルに達するためにはどうすればよいか」と考え始めました。配属から3年後の評価面談でその話を上司にすると、「いや、君にはもう少し経理とかを覚えてほしい」と言われ、「この会社では自分の能力開発に一貫性が持てない。他でキャリアップの機会を探したほうがよいのでは」と思いました(笑)。
その後も、いくつかの会社に勤め、実家の商売を継ぐべきかどうかを考えているところにリンクトインの話があり、ここで思い切って挑戦してみることにしたのです。
石倉 最初に待遇の良い人を見てしまい、それを基準にご自分の目標ができてしまったのですね(笑)。
杉本 自分の目利きを信じるしかなかった、というのが本音です(笑)。ただ、人をよく見る性向はあり、例えば試験前に1時間だけサッカーをやろうというときに、どうやって人を巻き込むか、どうアプローチして説得したらよいか、には知恵を絞るタイプでした。自分がやりたいことがみなに受け入れてもらえるように、コミュニケーションをしよう、そしてやりたいことをやろうと心がけてきました。だからストレスへの耐性もかなり強い方だと思います。こうしたことが、ビジネスプロフェッショナルは自らの力は自ら創造し、それを支援するというリンクトインの事業姿勢に共感できたのだと思います。
石倉 杉本さんご自身は、リンクトインによって世の中の仕事がどう変わっていくと考えておられますか。
杉本 個々人が、よりオープンな社会で、「プロフェッショナル」として認められ、そうした人たちが成長ビジネスを牽引していくことになると思います。そうなると、自分は、どのような能力を形成していくべきなのかを考える傾向が強まり、仕事も組織から個を軸にしたものに変わります。それは、現在の単純なアウトソーシングサービスではなく、プロフェッショナルが真に力を発揮して勝負する世界であるとイメージしています。
石倉 そうなると、リンクトインこそ、重要で有効なプラットフォームになりますね。
【対談を終えて】
このシリーズを始めるにあたって、どうしても私が対談相手にと求めていたのは、IT分野のグローバル企業の30代のリーダーでした。若い友人に相談して見つけたのが杉本さんでした。杉本さんとは面識がなく、この対談をした時が初めてだったのですが、最近私が関心を持っている人材のクラウドソーシング、新しい働き方のデザイン、企業や個人が「個」として見えるエコシステムなど、期待にたがわず、お話はとても興味深いものでした。同時に、これまで感じてきた日本企業のビジョンや求める人材スペックのあいまいさ、個人の専門性を伸ばす機会の少なさなど、やはりそうか、と思う点も多々ありました。
ITによって、個々の企業の仕事や個人の情報の可視化が進み、仲介組織を超えてプロフェッショナルと企業の仕事の機会が直接つながる可能性が拓かれつつあります。そうした中で、世界に比べてスピードが遅い日本の変化を先取りしているのがリンクトインだと思います。
リンクトインが展開しつつある新しいサービスの基礎には、蓄積しつつあるデータベースがあり、新しい時代が拓かれる中、リンクトインがプラットフォームとして大きな可能性を持つことを実感できて、とてもエキサイティングな対談でした。
杉本さんご自身のキャリアの目標の決め方、人や物事への目利きの力、そして人を巻き込みながら、自分のやりたい方向を目指す姿勢、実際に転職した時の経験、転職したことから開かれた新しい人脈などのお話も、新しい時代のリーダーの要件として、とても興味深いと思いました。
杉本さんご自身が、リンクトインの目指す新しい社会、新しい個人の働き方やキャリアを体現していること、そしてこうした年代・経歴の方々が新しい社会を創っていくのだと確信しました。
私自身、これまでリンクトインを活用していなかったのですが、4月からフリーで仕事をするようになったこともあり、杉本さんのお話を聞いて、自分の職歴、経験、スキルの棚卸しをしたり、私にも、とても参考になるヒントがたくさんある対談でした。杉本さん、ありがとうございました。