自らのキャリア、知見、
バックグラウンドを明確に示せるか
石倉 MBAプログラムに応募してくる人の書類を見ると、日本企業とそれ以外で、違いが見られます。日本企業では、仕事の与え方が違うためか、個人が「これをやってきた」「これができる」といったことが明確に書かれていません。またMBA取得者に対しても、特に日本の企業では募集人材のキャリアについて明確な説明がありません。必要な人材スペックを明確にしないと企業も社員の成長できないと思うのですが。

杉本 私が以前勤めていた日系IT企業では、成長途上の会社という事情もあったのでしょうが、中途採用では非常に専門的でキャリアのはっきりとした人を採用する一方で、新卒はゼネラリストとして採用していました。
一方、リンクトインの場合は、外資系企業によくあるように、組織はグローバルに縦型です。各部署が、日本法人というまとまりよりも、グローバル本社の機能的な縦組織の中にあります。もちろん企業内で別組織への異動もありますが、組織の中に専門性を持ったプロフェッショナルがチームとして仕事に専念するため、専門性が育まれます。また評価する場合、社会人経験の年数よりも、業務経験の年数が重視されます。例えば社会人歴7年目のうち5年間、広報関係の仕事をやってきたとすれば「プロですね」となりますが、30歳で同じ企業にいたうち広報経験が2年ならば、広報業務においては「ジュニアレベル」という評価になってしまいます。日本企業は、もっと早くから専門性を意識した人材育成を考え、本人も専門性を身に付けることが重要だと思います。
石倉 専門性についての考え方も違います。研究開発系の人ならば専門家といわれますが、生産部門でも管理部門でも専門性を意識して仕事は組まれていないし、専門性を育てることを狙いとした育成も行われていません。
杉本 成熟した社会にあって、人材を社内で成長させる基礎的なプランが破綻し始め、ビジネスが失速しがちになっている企業が多く見られます。そうなると、個人は自身のキャリアやブランディングに自分で責任を持ち、どの企業に所属していようと自身の実力は発揮できるという意識を持たねばなりませんし、また、それを助長する風土が必要です。
石倉 今まで個人は、新卒で就職する時、その後中途で転職する時と、ある一時期、あるプラットフォームに登録することが多かったと思うのですが、リンクトインでは、アカウントを取れば、それが一生続くと伺っています。1アカウントでずっと続けるのは、継続してキャリアを考える、専門性を追求するという点では、優れていると思いますが、これまでのキャリアから離れて、まったく違う分野に行きたいという場合、1アカウントであることから、過去のしがらみに縛られてしまうことはないのでしょうか。
杉本 リンクトインの登録者情報では、ジョブヒストリーや知見だけでなく、学校で学んだバックグラウンドをいつでも更新できるようになっていますので、自分の進化も含めて、より広い範囲からセルフブランディングができます。
石倉 つまり、他の誰とも違う自分自身のアイデンティティを明確にアピールできるわけですね。
杉本 いい言葉ですね。見せたい自分を示し、個の力でビジネスを開拓することができるのです。この意識が芽生えると、現在勤めている会社で自分は何をやってきたのか、という深い自省が促されます。その上で、人に示すことのできる自分の魅力や仕事のやり方を考えられるようになります。そういう人たちが集まっているのがリンクトインなのです。言葉を換えれば、会社の看板ではなく、自分の力、自分の看板で仕事ができるかどうかを常に内省しているような人がリンクトインを活用し、最終的に経済に貢献するために自己の価値を顕在化させているのです。