企業は明確な組織目的を持ち、
必要な人材要件を示してこそ成長する
石倉 企業は、そういう強い自覚を持ち、セルフブランディングができる人をどのように使っていくべきだと思いますか。強い個人がいてこそ、強い組織もできると思うのですが。

杉本 企業は、個人の専門性を最大限に生かすために、事業目標と組織の目的は明確にする必要があると思います。その目的がはっきりしていれば、人材も自己の専門性を十分発揮することにつながります。さらに実力のあるスター選手を揃えて組織を強くするには、社内エースを配置するだけではなく、他社からも本当に力のあるエースを引っ張ってくるぐらいの覚悟と努力がなければなりません。そのために企業は、企業の採用ブランド力を構築する必要があります。具体的には、事業が成功しているのはもちろんのこと、優秀な人材にとって魅力的だと思える職場環境を作り、社外にその情報を発信していくことが大切です。
石倉 クラウド型の社会が進むと、必ずそのような動きは促されると思います。そして能力をはっきりと示せる人と、目指すビジョンとそれを実現するために必要な能力をはっきりと表現できる企業にこそプロフェッショナルが集まるようになるというわけですね。
杉本 そうですね。そして、さらに昨今のビジネスは、より一層目まぐるしい展開をしつつあります。 事業が撤退するなんてことがあってもおかしくありません。いつどのようなことがあっても、自分に専門性があれば、同じ事業を行なっている別の企業で自分の実力を生かすことが可能です。海外でいうところのキャリア、専門性とはそういうものです。しかも、それらが国境を越えた価値を備えていれば、世界のどこでも働くことができるので、キャリアの可能性が一層広がります。
石倉 成熟産業から成長産業に人が移っていける仕組みが必要だし、その前提となるのがセルフブランディングに象徴される専門性を持った個人ですね。
杉本 その意味では、日本には、個人のレベルでもっともっとチャレンジする風土を助長していくことが必要なのではないかと思います。新しいことをやろうとすると、リスクの洗い出しや検討に時間を使い、チャレンジに対して抵抗する雰囲気があります。まずは一人ひとりが自分の殻を破っていくことで成長し、プロフェッショナルとしてのキャリアを築き、周囲はその成長を応援し、切磋琢磨していくことが大事だと思います。
石倉 社員のキャリア形成はこれまでほとんど企業が担ってきました。しかし、よりオープンで流動性の高いビジネス社会での能力開発は誰が担っていくべきでしょうか。
杉本 能力開発は、個人が企業での経験を通して伸ばしていく必要があると思っています。一方、企業は個人の能力とキャリアの方向性をよく理解し、企業と本人の成長の延長線上にストレッチした目標を設定し、数値化した指標で管理する必要があります。そうすることによって、双方に良いシナジーが生まれます。今後は、個人がどの国においても能力を発揮できるよう、海外の人にも価値を理解してもらえる客観的な数値や標準化された基準を用いて、能力の開示をする必要が出てくるでしょう。
石倉 それこそが国境を超える人材価値を生み出す原動力になるというわけですね。