プロフェッショナルのSNSから垣間見える
セルフブランディングの重要性
石倉 一部の人々は、リンクトインを転職や就活を軸とするSNSととらえているようですが。

杉本 単純な転職支援サイトではありません。確かに企業が採用したいプロフェッショナルを探しダイレクトに転職を働きかけることは可能ですが、それ以上にビジネスに特化したSNSとして先ほどお話しした情報収集やキーパーソンに学ぶなど、私たちのミッションである「プロフェッショナルの生産性を向上させる」ためのプラットフォームなのです。最近はそれを理解していただけるようになりました。
石倉 リンクトインの事業について伺っていると、「人材の要件」についての考え方を大きく変える可能性を秘めていると感じます。プライベートな話題が中心のSNSや速報的なツイッターとは違い、狙いが転職であれネットワークづくりであれ、ビジネスに特化することで、自身の履歴、スキルを明確にした働き方が促されていくのではないでしょうか。
杉本 海外ではよく「セルフブランディング」という言葉を使います。個人が専門性を持ち、プロフェッショナルな仕事をすることをめざし、そのために常に自分が不足している経験やスキルを追求しています。その道のスペシャリストになるように努力する、さらに周りに認められるようにすることが一般的です。このように海外では、社内外でキャリア形成をするために自分で努力し、自分の位置づけを確固たるものするブランディングが不可欠となっています。
石倉 自分が何をやってきて、どのような知見を備えているかを問われると、その上で、「私を必要とする人がいれば転職するし、自分自身、さらにキャリアを積みたいと思ったらそのために転職する」ことが可能になります。一方で、企業は、どういう人材が欲しいのかを明確に説明できているのでしょうか。キャリア採用と言いながらも、「経験5年以上」などとあいまいで、詳細な仕事内容を詰め切れていないことがよくあるのではないでしょうか。実は、欲しい人材像を明確に描き切れていないのに採用してしまうことも(笑)。
杉本 日本企業の採用では、「当社のカルチャーに合った人」といった表現がいまだに根付いているようです。では「どんなカルチャーなのですか」と問うと、明文化されていないから、はっきりと答えられないこともあります。「チーム力を大事にした前向きな風土」とか言われても、それはカルチャーでも何でもなく、ビジネスとしての当然のことです(笑)。
新卒採用でも、企業が必要とする人材と採用される側のマッチングにおいて、改善の余地があるように思えます。学生本人がスキルやポテンシャルを生かせる企業を探し志望するというよりも、社名や規模などだけで企業を選び、ランク付けがされています。企業側は、募集する人材の要件をよりはっきりとさせて人を求めるようにはなっていません。
日本のリンクトインでは、2013年全世界2.4万校の大学、日本では京都大学や慶應大学など17校が参加する「カレッジページ」を開設しています。これには2つの役割があります。1つは、プロフェッショナルをめざす学生たち、特に中高生たちがその道のプロをめざすにはどの大学で何を学び、どのようなキャリアが必要かを知ることができ、進学に役立つことです。一方、大学側からすれば中高生に情報を発信できるし、在学生の就職アドバイスにも使えます。つまり大学のブランディングです。プロフェッショナル人材の要件を、より明確にした学び、教育の体制を準備できるのです。