設計図のコンテンツ部分

 設計図におけるコンテンツ部分は、WHY、WHAT、HOWの3つのパートから成る。

 特に、青の組織ではリーダーがこの3パートのデザインを主導し、その中身を人々に語りかけ、それをもって人々をリードする。つまり設計図のコンテンツ部分の3パートはリーダーシップのツールとして機能する。青の組織を念頭におき、緑の組織の場合と対比しながら、3パートを一つずつ見ていこう。

設計図のWHY部分:目的

 WHYとは、一言でいえば、組織が向かう「目的」を示す部分である。それはミッション(使命)やビジョンともいわれ、諸事の方向性を決めるものであるから、設計図のコンテンツ部分の先頭に位置する。いわゆる財務的な数値のゴールもこの目的の一部を構成する。

 組織における事柄は、一事が万事、この目的に合っていれば価値がありやるべきこととなるし、この目的に合わなければ無価値・反価値でやるべきではないこととなる。つまり、この意味での目的さえ決まれば、その企業に関する限り、それは世界中どこにいっても絶対的な基準となる。その絶対的なパワーは、一神教における絶対的な目的(キリスト教における救済、イスラム教における帰依など)を連想させる。

 ただし、一神教と異なり目的は多様であり、数値的なものもあれば、定性的なものもあるし、短期的なものも長期的なものもある、といった具合にさまざまな種類のものがある。どんな目的をどのような形で定めるかは、青の組織の設計図をデザインする上で、最重要事項である。このあと述べるWHATもHOWもそのかなりの部分は、目的(WHY)として定められたことの実現に資する形でデザインされる。

 緑の組織の場合にも、もちろんこの目的という意味でのWHYは存在するし、この部分は言葉や数値として形式知化されているのが普通だ。その点では青い組織と変わらない。

 しかし、青の場合と異なるのは、目的が究極の位置付けになり得ない点である。青の組織では、目的(WHY)が、ものごとが望ましいか望ましくないかを決める究極の基準となり、いわばその意味で憲法・公理としての機能を果たすのに対して、緑の組織では、せっかく目的を定めても、青における目的のような普遍的で絶対的なパワーを持ち得ず、文脈・空気によって限定されたり、骨抜きにされたり、ゆがめられることとなる。

設計図のWHAT部分:ケイパビリティ

 WHATは、目的(WHY)の実現に向けて行動する「主体」を指す。主体というと、人間に限定されたイメージを持たれるだろうが、ここでは広義にとらえ、組織が持つ「ケイパビリティ」と定義する。すなわち、目的(WHY)実現のために、それを実現する主体・ケイパビリティ(WHAT)を構成するという設定である。

 主体には、構成する主体と構成される主体があり、前者がリーダーで、目的を打ち出し、その実現に向けて、後者の組織主体(メンバー)を構成する、ということになる。後者の組織主体は企業内の人材がメインであるが、企業外の人材も排除されない。

 さて、この主体としてのケイパビリティには、会社に属する個々人のケイパビリティと、個人が集まった組織のケイパビリティがある。組織のケイパビリティの最も端的な姿はバリューチェーンであり、特に、R&D、製造、SCM、マーケティング、販売、サービス等の諸専門機能から成る事業機能としてのバリューチェーンがその中核である。それは、目的(WHY)によって規定される成果(製品やサービスなどの価値)を生み出す「専門機能の統合」にほかならない。

本連載では、組織を見る際に、「バリューチェーンを構成する機能」の視点を重視しており、その最大の理由は、機能別でみた組織単位、すなわち「専門性」が、組織構造における最もファンダメンタルな要素だからである、とした。この点に加え、現代企業の競争力、すなわち強味のかなりの部分は専門性の統合から生まれているので、ケイパビリティも専門性の統合としてとらえるのがよいと考える。