以上のような専門性の統合という形でケイパビリティを構成する方法は、優れて青の組織のものである。このことが、企業にとっての人材の質・量の調達可能性を多いに高める。というのも、専門性はその専門分野に関する限り世界的に普遍であるので、専門性を身につけた人を広く世界に求めることができるからだ。
また、専門性を育てる方法や教材は進化を続けているし、大学や大学院等を含め外部での教育を多いに利用できる。さらに、専門性の「統合」の方法論も、ジェネラルマネジメント論やリーダーシップ論として進化を続けている。
では、緑の組織の場合、このWHATはどうなっているのだろうか。
確かに、バリューチェーンや組織構造等を概観する限り青の組織と大差はない。しかし、その中身に立ち入って、どこでも通用する世界標準や一流水準の専門性をそろえているか、そうした専門性を普遍的な方法で統合しているか、といった観点で見ると、緑の組織は青の組織と比べて非常に見劣りする。
もちろん、一部のメーカーの開発・製造力のように、青色的な専門性とその統合レベルをはるかに凌駕したすばらしい緑の強味を備えているところもあるが、全体として見れば決して多くない。どうも、緑の組織の特徴である社内に閉じた人的文脈が強すぎて、外に開かれた高水準の専門性の取り入れや、そういう専門性を前提にした統合や、専門性の統合を目的実現に向けて活用するといった、青の企業が得意とする動きが取りにくくなっているようだ。
そしてこの強すぎる人的文脈の原因を探せば、その矛先は、同質人材の長期雇用に向かうだろう。ここで注目すべきは、本連載で論じているような「まだら模様化」が、同質人材という緑の心臓部にメスを入れる可能性である。ただし、このメスは、心臓部に内蔵された競争力の源泉となる緑の強味をも同時に傷つけかねないから、周到な手術計画と手術の技と術後のケアが必要なことはいうまでもない。
なお、目的を実現するケイパビリティとしては、人間以外のケイパビリティ、特に、人口知能・インテリジェントマシンが有するcomputing capabilityとinformation capabilityの重要性が急速に増大しつつあり、人間のケイパビリティの領域を次々に代替・補完しつつある。最初に、人間の能力に限定せず「組織のケイパビリティ」と定義したのは、これを考慮してのことである。
この非人間ケイパビリティの取り入れは、いわゆるデジタル化と重なりながら、企業組織・人材に大きなインパクトを与えつつあり、本連載で論じている緑と青のまだら模様ともさまざまな形で交錯するので、いずれ本格的に取り上げたい。
今回は、日系企業的な緑色人材と外資系企業的な青色人材の特徴を比較し、なぜそのような差異が生まれるのかについて、両系企業の設計図にまで分け入って説明した。次回は、目的であるWHY、それを実現する主体・ケイパビリティとしてのWHATを行動として制御するHOWについて解説したい。