販売とマーケティングは異なるものである
製品中心ではなく顧客中心の視点とは具体的にどのような経営のあり方なのか。これについてレビットは、「マーケティングと販売(セールス)は異なる」と明確に定義している。
この指摘はまた、マーケティングがいかにビジネスの根幹に関わるものかを示すものである。
「マーケティングとはどのようなものだとお考えですか」と質問すると、多くの人が「販売」や「調査」であると答える。「当社はマーケが弱い」と嘆く経営者の言葉の真意を探ると、それは単に販売力がない、営業力が弱いことを言っているのにすぎないケースも多い。
しかしレビットは、販売が売り手側のニーズに重心を置いているのに対して、マーケティングは買い手側のニーズと最終満足に重心を置いていると喝破する。つまり、マーケティングは経営そのものなのである。
これについてコトラーは、レビットを次のように評価している。
「販売戦略の1分野と見なされていたマーケティングを、経営の中枢へと押し上げた最初の功労者の1人」
(「もう一人の巨匠 レビット・マーケティング論の意義」DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー2001年11月号)
さらにレビットは、次のように述べる。
事業を顧客の視点で見直し、マーケティングの考え方を事業展開と経営全般に貫徹する。それこそがマーケティングなのだ。
しかし残念ながら、先にも紹介したように、マーケティングをセールスや消費者対応をテーマにするものだという認識が根強い。マーケティングの“変容”とでもいうべき残念な事態に陥ってしまった原因の1つは、マーケティングのテキストにあるのではないか、と私は考えている。読者にわかりやすいケースとして、どうしてもB2Cが取り上げられ、マーケティングは、資生堂や花王、P&Gに象徴される消費財を巡る学問だと考えられてしまっている。
この片寄りのために、「生産財マーケティング」のような個別のテーマとしてB2Bは扱われるようになってしまった。レビットが石油産業などを例に説明しているように、マーケティングは本来、B2Bも含めた多彩な事業を包括する考え方であり、こうした正しい認識があれば、マーケティングに対する誤解も自ずと解かれるはずである。