足で稼いでこそ発見できる課題もある

――課題を発見するのに大事なのは、実際に何が起きているのかという生の現場や現象を皮膚感覚でとらえることだとおっしゃりました。この点についても具体的にお聞きしたいのですが。

 足で稼いで初めてわかる課題というのも、けっこうあるんです。私は散歩が好きで、ぶらぶら歩きながら、気になるものをデジカメで撮っています。東京の住宅地域はマンション街であっても住民個々人の努力で大変緑豊かなのですが、電線と電柱で景観を台無しにしている、どうにかならないものかと思いながら歩いています(笑)。
 すると、いろいろなものを発見します。この間は、築数十年は経っているだろうと思われる「女性専用マンション」を見つけて、その先見性に感心しました。

――女性用マンションのどこが先見的なのでしょうか。

 篠田節子さんの『女たちのジハード』という小説に、34歳独身のOLの話があるのですが、これが面白い。結婚の予定もないので貯金をはたいてマイホームを買おうと決心し、競売物件のマンションをヤクザと渡り合って必死の思いで手に入れる。まさにジハード(聖戦)を挑むわけです。
 街で女性専用マンションを見つけて、この話を思い出しました。女性が40歳過ぎて一人暮らしだと、理由はよくわからないのですが、賃貸物件を貸してもらえないらしい。そうだとすれば、一人で生きていくぞと決めたならば、40歳までにマンションを手に入れなければなりません。そのために計画を立てる必要があるということです。
 古い女性専用マンションを見て、もう何十年も前からこのことに気付いていた人がいたのだと思い感心したのです。

――人生90年時代の女性の人選設計を考えた時、重要なテーマです。

 家族形態が多様化していて、ファミリーカーのコマーシャルに出てくるような標準的な家族形態は少なくなっている。したがって、あれを現代の日本の家族と想定して課題を考えたら間違ってしまいます。

 そういうことは、データを見て分かるものではなく、皮膚で感じるものなのです。夫婦と子ども2人という家族形態が少なくなってきているという事実は、たしかにデータとして提示されていますが、その数字やグラフを眺めているだけでは、一人暮らしの老人世帯だけではなく多様な家族形態が拡大してきていることの意味を本当に理解できないし、そこからどういう問題が起こり得るかなど発想できるものではないでしょう。

(構成・文/田中順子)