フィリップ・コトラーは、マーケティングのフレームワークや発想法は1日あれば学べるが、使いこなすには一生かかると述べている。それをレビット流に論じているのが「Exploit the Product Life Cycle(製品ライフ・サイクルの活用)」だ。この論文を発表した当時、レビットは、製品ライフ・サイクルという概念を戦略的に使いこなす経営幹部は皆無だと述べた。49年後の今日、果たして戦略的に活用している企業はどれだけあるだろうか。

製品ライフ・サイクルを知れば、
マーケティングに広がりと奥行きが生まれる

『Harvard Business Review』の1965年11・12月号に掲載された「Exploit the Product Life Cycle(製品ライフ・サイクルの活用)」は、次のような書き出しで始まる。

「情報に敏感で高い意識を持つマーケティング分野の経営幹部のほとんどは、製品ライフ・サイクルという概念を承知だろう。(中略)しかし、経営幹部を対象に行った最近の調査では、この概念を戦略的に活用している人は皆無で、戦術的に活用している例もごくわずかだった」
Most alert and thoughtful senior marketing executive are by now familiar with the concept of the product life cycle.……Yet a recent survey I took of such executives found none who used the concept in any strategic way whatever,and pitifully few who used it in any kind of tactical way.

Exploit the Product Life Cycle, HBR, November-December 1965.
『T.レビット マーケティング論』(ダイヤモンド社)第4章


 レビットが言うように、製品寿命や製品ライフ・サイクルという考え方を知らない人はいないだろう。しかし、この論文を読むと、「ライフ・サイクルという枠組みを使いこなすとは、まさしくこういうことであったか」と目から鱗が落ちる思いがする。私も、レビットの論文は何度も読んでいるのだが、読むたびに発見があり、あらためて学ばせてもらっている気分になる。

 ライフ・サイクルを知ることで、製品戦略に「広がり」と「奥行き」が生まれる。広がりとは、品数や価格設定など特定製品から横への展開であり、奥行きとは特定の製品寿命を長くするための延命策だ。

 レビットは、「製品ライフ・サイクルの概念は、300年前の世界のコペルニクス地動説と同じような位置づけにある。つまり、多くの人が知識としては知っていても、効果的に生産的に活用したことはほとんどない」と、本論文を執筆するにあたっての問題意識を示す。そのうえで、「本稿の目的は、知識だけでなく競争力を強化するための経営手段として、ライフ・サイクル概念の効果的な活用方法の提案にある」と明確に述べている。

 詳細は、次ページ以降から解説していくが、再読して思い出したのが、フィリップ・コトラーの「マーケティングは1日あれば学べる。しかし、使いこなすには一生かかる」という言葉である。マーケティングには、逆説的な性質がある。つまり、非常に実務的なものであるだけに、マーケティングのフレームワークや発想法は、実務経験が豊富な人であれば1日で学べる。しかし同時に、実務的であるがゆえに、次の日から使いこなせるほど簡単なものではない。これを、レビット流に端的に述べているのが、冒頭の一節だ。

 その意味で、本論文は事業部長やブランド・マネジャーなど、実務の最前線にいる幹部向けの論文といえるだろう。論文中には、「かじりかけリンゴ戦術(used apple policy)」「製品拡張(life extension)」「市場伸張(market streching)」「事前計画(advance planning)」といった興味深く、重要なキーワードも登場する。

 それでは、あらためて製品ライフ・サイクルの活用について読み進めることにしよう。