製品ライフ・サイクルの4段階と段階評価

「大成功した製品の歴史を時系列に追っていくと、いずれも共通の段階を経ていることに気づく」
The life story of most successful products is a history of their passing through certain recogniizable stages.


 製品のライフ・サイクルを効果的に活用するためにレビットはまず、ライフ・サイクルには4つの段階があることを提示する。いわゆる「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」で、これらが何を意味しているかは多くの実務家は知っている。しかしレビットの豊かさは、各段階の特長と、段階ごとにおける基本戦略を端的に示している点にある。順に確認してみよう。

導入期

 導入期は、パイオニア企業による市場創造の段階だ。企業および事業の持続的な成長には、顧客志向に基づいた新製品開発が第1の条件だが、一方で、新製品開発に伴う膨大なコストと頻繁に起こる致命的な失敗のほうが多く、「新製品」という名の死屍累々を見ることになる。

 手痛い目に遭って現実に幻滅した企業は、以後、「より保守的な姿勢に転じ、かじりかけリンゴ戦術を取るのも無理ないことだ」とレビットは指摘する。「リンゴの最初の一口はいらない。二口目でも味は変わらないからだ」。ただし賢明な企業は、「かじり尽くされた芯ではなく、二口目でも十分にほおばる量が残されているかを見極めようとする」。

成長期

 新製品が市場で受け入れられる過程で、需要が急増し、売上高が飛躍的に伸び始める時期が来る。ブームの到来である。それを見ていた「かじりかけリンゴ戦術」の一群が、次々と市場に参入してくる。各社は商品を浸透させる努力だけでなく、消費者により寵愛される(支持される)ための問題に対処しなければならない。

 パイオニア企業は、導入期のように自由な方針や戦術は取れなくなる。最適な価格水準や流通チャネルの設定など、それまでは簡単に試せていたことが競合相手の出現で自由にできなくなり、マーケティングの戦略や施策に大きな転換を迫られる。これが成長段階の重要なポイントだ。

成熟期

 市場の成熟段階では、いくつかの特徴的な兆候が現れる。まず市場浸透が進んだことにより、製品は消費者にあまねく行き渡り、自社製品を選んでもらうために製品や顧客サービス、販促活動、請求方法などで、ますます「競争的な取り組み(competitive attempts)」が図られる。

 また製造業者は、自前の店舗を保有するなどして、陳列スペースの確保に力を注ぎ、より集中的な流通経路の構築へと向かっていく。成熟段階の期間は、ファッションの流行に象徴されるように急激に衰退に向かう場合もあるし、紳士靴のように1人当たり消費量が増えもせず減りもせずに長期間続く場合もある。

衰退期

 市場の成熟の終焉、つまり市場の衰退段階に入ると、産業は必ず大きな変化を見せる。生き残れるのは数社のみである。成長段階で明白になっていた設備過剰は、この段階ではすでに慢性化している。競合他社の衰退を早めたり、競争相手が脅威を感じて自発的に撤退するように仕向けるため、合併や買収など積極的に競合他社を圧倒するための戦術がいろいろと試されるようになる。

 レビットはさらに、パイオニア企業に絞って、各段階における課題についての解説を丁寧に繰り返している。一般的に、際立って斬新で独特な新製品ほど離陸までには長い時間がかかり、斬新であればあるほど失敗のリスクも高まる。市場が急成長を遂げるときには、パイオニア企業の市場シェアは縮小するが、競合他社がいないときよりも総売上高や総利益は急成長を遂げる(これは、スマートフォン市場におけるアップル社のシェアと利益を思い浮かべればわかる)。しかし、成長期には同時に、パイオニア企業の1製品当たり利益が突然、減少に転じる可能性も高なるという。

 その上で、ある製品がどの段階にあるかを見極める効用(手法)が示される。つまり、<1>常に自社の将来と競争環境を推測しながら進むようになること、<2>将来を見ることで、現在のみを見るよりもバランスの取れた視点から現状をとらえることが可能になること、<3>ある時点で特定の製品がどの段階にあるかを知ることの価値は、その事実(情報)を将来の環境予測に使うことで、現状だけを見るよりも効果的に現状理解ができるということ、だ。

 見極めのポイントは、「次の段階を推測し、そこから遡ってみることである」という。まるで、カップから逆算して3打目、2打目、1打目の位置を見極め、そこに的確にボールを運べるゴルファーこそ、一流だといわれているのに似ている。