レビット流マネジメント【企業事例2】
製品寿命を延命する4つの方策

「新製品を発売した後の製品ライフ・サイクルにおける具体的な行動――製品の成長と収益性を保つための行動――を検討するという『事前計画』の考え方こそ、長期的な製品戦略のツールとしての大きな可能性を秘めている。(これは)ナイロンの歴史を見れば明らかである。(中略)デュポンは、次の4つの方法で売上拡大をめざす戦略を立てた。<1>ユーザーの使用頻度を高める、<2>既存ユーザー向けの多様な用途を開発する、<3>市場を拡大し、新規ユーザーを創出する、<4>一次材の新規用途を開発する」
It is this idea of planning in advance of the actual launching of a new product to take specific actions later in its life cycle―actions designed to sustain its growth and profitability―which appears to have great potential as an instrument of long-term product strategy.
How this might work for a product can be illustrated by looking at the history of nylon. 1.Promoting more frequent usage of the product among current users. 2.Developing more varied usage of the product among current users. 3.Creating new users for the product by expandeing the market. 4.Finding new users for the basic material.

 
 製品ライフ・サイクルを俯瞰し、製品寿命を延ばすためには、どのような方法があるのだろうか。レビットは、自身が「ナイロンの仮説」と呼ぶデュポン社の取り組みを分析している。デュポンは、既存のナイロンの需要が横ばいになるのを見計らうように新しい需要を創造し、結果としてナイロンの製品寿命の延命に成功した。その分析を通じて浮き上がってきたのが、4つの具体策である。「製品寿命延命のための4つの方策」と表現してもよいだろう。

 授業や講演会などで「マーケティングとイノベーションの違い」について質問を受けると、私は次のように説明している。イノベーションは、「ビジネスの力であり体力である」と。イノベーションの強化とは、まさに企業の力を引き上げることに結びつく。一方マーケティングは、「ビジネスの技であり知恵である」。どんなにビジネスに力があっても、技や知恵がなければ手強い相手には勝てない。この技と知恵、特に知恵とは何かを示しているのが「4つの方策」であり、知恵を広げたり、深めたりするのがマーケティングである。

 ナイロンの事例で考えてみよう。「使用頻度の増加」では、女性たちが靴下をはかなくなっていることをとらえ、ストッキングを常に着用することの社会的な必要性を強調した。しかし実行は困難で、コストもかかるが、製品寿命を延長するために既存ユーザーの使用頻度を高めるという目的は果たせる。

「用途の多様化」では、色付きのストッキングや柄入り、凝った織りのストッキングなど「ファッション性を高める戦略」が採られた。つまり、ストッキングにおけるファッション性への認識を改め、女性一人ひとりのストッキングの買い置きを増やそうとしたのだ。

「新規ユーザー」では、10代前半の若い女性をターゲットに、ストッキングを着用することの必要性が説かれ、ファッションリーダーを中心とした広告やPR活動が展開された。

「新規用途」によって、ナイロンはさまざまな分野で成功を収めている。ストレッチタイプのストッキングなど、バラエティーに富んだ用途を生み出した他、敷物、タイヤ、ベアリングといった新たな用途を開発した。

 こうして、ストッキングなどのメリヤス製品にとどまっていれば年間5000万ポンド程度であろうナイロン需要は、5億ポンドもの規模に拡大し、ナイロンの製品寿命は延命されたのである。

 いかがだろうか。みなさんの会社で扱っている製品に置き換えて考えてみると、レビットが説いた事前計画の重要性を理解できるだろうし、延命策が的確に打たれているかどうかについても評価できるだろう。レビットが示した枠組みを、“実務的なシナリオ”として使いこなそうとするだけで、マーケティングは大きく変わるはずである。

 次回は、ブランド論の先駆になった『岐路に立つブランディング(Branding on Trial)』について読み解こう。