「全体構想」と「事前計画」が
製品寿命を延ばす

「実際、あらゆる製品戦略と経営上の意思決定には必ず、将来、市場、競合相手についての予測が伴う。自身の立てた予測をより組織的に認識することで、その予測に基づいて、防衛的や受動的にはならずに、攻撃的に行動する――それこそが市場伸張と製品延命のための計画を事前に立てておくことの真の長所である」
In fact, every product strategy and every business decision inescapably involves making a prediction about the future, about the market, and about competitors. To be more systematically aware of the predictions one is making so that one acts on them in a offensive rather than a defensive or creative fashion――this is the real virtue of preplanning for market stretching and product life extension.
製品ライフ・サイクルの各段階において、続く次段階で求められる競争上の要件が考慮されなくてはならない。
……at each stage in a product's life cycle each manegement decision must consider the competitive requirements of the next stage.

 

 これらの引用には、本論文の読者への回答がすでに示されている。つまりレビットは、製品ライフ・サイクルを知ったうえで全段階を評価していく必要性があり(その手法が先に示された3つの効用)、それをさらに有用にするためには、「事前計画」が極めて重要だと指摘しているのである。事前計画、つまり数年先を見越した全体構想を持つことが、次なる段階への準備を促し、市場の伸張に活力を与え、結果として製品寿命を延命するのである。

 事前計画が有効な理由は3つある。<1>受動的ではなく能動的な製品戦略が策定しやすくなること、<2>適切なタイミングと正しいやり方で適切な労力を用いて、製品に新たな活力を吹き込むための長期的計画を立てられること、<3>発売前に、製品ライフ・サイクルの後の段階における売上拡大や市場拡張の活動計画を立てておくことの最大の利点、つまり事前計画を立てておくことの最大の利点は、それによって新製品(取り扱い製品)の特質を理解し、幅広い視野を持てるようになること、だ。

 これらの主張が説得力を持つのは、前段階における短期的な成功が、必ずしも次の段階の成功や長期的な成功には結びつかないことを具体的に示しているからである。

 例えば、ある低カロリー食品は、極めて医学的な色合いの強いテーマでの広告を最初に用いて成功したが、類似の競合商品がファッショナブルなダイエット食品としての側面を強調して成功すると、パイオニア企業の製品売上は伸び悩んでしまった。「肥満に悩む消費者のための食品」というイメージが、あまりにも強く確立してしまったがために、「おしゃれに関心のある人々が用いる食品」というイメージを克服できなくなったのだ。

 また「順番」という具体例も示している。女性向けのカラーリングや毛染め関連製品の販促活動が、もしヘア・スプレーやスタイリング剤が流行するよりも前に行われていたら、カラーリングや毛染め関連製品が成功を収めることはできなかったはずである。つまり、ヘア・スプレーやスタイリング剤で整えた髪の形が維持できるようになったために、次のステップとしてカラーリングや毛染めという商品が受け入れられたのである。

 今日、製品のライフ・サイクルはますます短く、速くなっている。そうした状況のなかでは、順番、言葉を換えればカードの出し方のスピードも速まっている。だからこそ一歩間違えると大きな躓きになる。

 順番のエピソードは、「土壌」と読み替えることもできる。新製品や新サービスが、受け入れられるためには、そのための土壌がなくてはならないし、土壌をとらえなければならない。

 ここで私が思い出すのが、日本香堂の成功事例だ。同社は秋から年末にかけて、「喪中はがきが届いたら、お線香で弔意を示そう」というキャンペーンを展開し、進物用お線香の売上増に成功した。葬儀を家族葬で済ませる人が増えてきたため、喪中はがきが最初の訃報となるケースが増えている。そこで、香典代わりにお線香を贈ろうというわけだ。家族葬という葬儀における変化がなければ、年末における進物用お線香の市場は生まれなかったはずである。つまり土壌が準備されていたからこそ、日本香堂のキャンペーンは成功したのである。