「模倣戦略の優位性」は、第1回で紹介した「マーケティング近視眼」発表の6年後、1966年度のマッキンゼー賞受賞論文である。独創的な発想で、舌鋒鋭く産業界の既成概念に迫り、すでに世界中に名声を広めたレビットは、この論文においても、先発優位や一番手といった華々しいビジネス・アピールだけでなく「模倣という実利」を手にすることの価値を説き、イノベーション戦略の本質を突く。そこに、本論文の大きな価値がある。

模倣の価値、意義を明確に評価する

『模倣戦略の優位性』は、1966年9-10月号の『Harvard Business Review』に掲載された論文だ。そのテーマとレビットの考え方は、論文の最終節に見事に凝縮されている。

「イノベーションを偽りの救世主とするのは誇張であり、模倣こそ新たな救世主とするのも誤りかもしれない。しかし、イノベーションこそ救世主と考え、計画的な模倣の持つ実現力に関する現実的評価を無視して、偏った行動に走ることのほうがさらに大きな誤りである」
Perhaps it is an overstatement to say that innovation is the false messiah and a mistake to say that imitation is the new messiah. But to behave lopsidedly as if innovation were a messiah, and especially at the awful expense of a realistic appreciation of the fructifying power of more systematic imitation, would be an even greater mistake.

Innovative Imitation, HBR, September-October 1966.
「模倣戦略の優位性」DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー2001年11月号
(1966年度マッキンゼー賞受賞論文)
『T.レビット マーケティング論』(ダイヤモンド社)第6章


 レビットは、製品開発における「模倣」(後発)という行為の重要性に着目し、それをビジネスモデルに計画的に組み入れるべきだと主張する。つまり、後発の意義、模倣の意味や価値を明確にしているのである。

 ビジネスに限らず世間一般では、「先発優位」が普遍的な原理だと考えられている。

 これは、数々の冒険譚を思い浮かべればすぐに理解できる。大西洋横断単独飛行に世界で初めて成功したのはチャールズ・リンドバーグであることは誰もが知っている。しかしリンドバーグよりも長い距離を短い時間で横断して見せたバート・ヒンクラー(豪人)の名を知る人は少ない。パイロットとしての腕前では、ヒンクラーの方が数段上であったといわれるが、人々の関心はそのようなことではなく、「世界初」「先発」であったかどうかに向けられる。

 先発や後発に関する研究は、ビジネスでは大きなテーマとして取り扱われてきた。たとえばドラッカーは、『イノベーションと起業家精神』で、後発の取り組みについて「イノベーションを行った者に引き続いて社会に貢献する製品やサービスを普及させる戦略」と説いている。

 かく言う私も、1990年代の後半は先発・後発の研究に力を注ぎ、『逆転の経営力~創造的模倣戦略』『後発の競争論理~追随逆転型のマーケティング戦略』などの論文を上梓した。

 しかし不覚にも、執筆の30年以上も前に、レビットが模倣戦略について論文をまとめていたことは知らなかった。古い論文ゆえにチェックできていなかったのだろうと思うが、いずれにしても、60年代半ばにこのような論文を発表していたとは、その先駆性に舌を巻くばかりである。イノベーションや一番手といった華々しいビジネス・アピールだけでなく、模倣という実利をどのように手にするのかを教えてくれている。