模倣は、イノベーションと同様に
正当化されるべきである
レビット自身は、「結論」としか書いていないが、翻訳本の編者は「創造的模倣者の価値を正当に評価する」という小見出しをつけている。これは実に的を得たもので、レビットは結論で重ねて模倣戦略の重要性について語り、「模倣は格下」という企業文化の是正を訴えている。
世の中は、イノベーターこそ華々しい存在であり、模倣は安易なものの決めつけたがる。その気持ちを最も強く抱いているのが、開発技術に携わる人々だろう。しかし、「イノベーションにつきまとうリスクは広く認識されているが、模倣にまつわるそれは不十分である。ある企業が多数の競合他社と同時に、模倣品を市場に投入するリスクは極めて大きい」と2つのタイプの企業それぞれに警告を発する。つまり、イノベーションを絶対視しがちな企業に対しては模倣品に対するリスク認識の重要性を訴える一方で、模倣する側(後発)に対しても、「模倣手段を頻繁に提案する人を価値がないとか、能力が劣っているとみる環境は最も不幸な負の結果といえよう。このような環境下では、たとえ早期に模倣手段に訴えたからこそ今日の成功があったとしても、社員は模倣戦略を意識して避けるだろう」というのである。
開発技術者たちは、先駆的でありたいと願うがゆえに、人が拓いた道は歩きたがらない。積極的に避けて通ろうとさえする。しかし、それを許していると、気がついたときにはすでに新規参入ができないほど手遅れ状態になっており、利益の果実を味わうことはできなくなってしまう。
だからこそ、模倣という取り組みに対する正当な評価が必要なのである。実際、模倣者には模倣者のリスクがあり、それを克服して利益の果実を味わうのは、イノベーティブな活動となんら遜色のない取り組みなのである。
「イノベーティブな模倣を生み出す方法を明解かつ入念に練り上げることは、イノベーションそのものと同様に有意義である」
『模倣戦略の優位性』は、1966年の論文と紹介したが、日本語版は、『ダイヤモンドHarvard Business Review』2001年11月号の「レビット特集」での翻訳が初訳であった。製品ライフサイクルの議論の過程で後発の戦略性について述べられることはあっても、レビットの本論文ほど明確に模倣の価値を訴えたものはない。まさに眠っていた論文であり、それ自体は残念なことだが、現在、こうして再読の機会を得たことは喜びとしなければならないだろう。