ソ連で進んだ“消費者革命”に
ブランド論の本質を見出す
ブランドの価値や効用を具体的に示すために、レビットは当時、ソ連で起きていた一種の“消費者革命”に注目する。
60年代の初頭、ソ連では複数の工場が、政府の定めた規格通りの17インチテレビの製造と販売を始めた。しかし、欠陥品ばかりで、しかもどこの工場でつくられたのかもわからない。テレビの売れ行きはどんどん鈍くなっていく。「消費者にしてみれば、買わないようにすることが唯一の自衛手段」であったからだ。
これにメスを入れたのが実利派のフルシチョフ首相(当時)で、テレビの一件があってから商標の導入を進める。とはいえ当初は、製造工場を識別する印にすぎなかったのだが、商標はやがて思わぬ効用を持つようになる。
レビットは、それを4点ほど提示している。
<1> 消費者は、商標を基に評判のよい工場の製品を選び、評判の悪い工場の製品を避けるようになった。
<2> 評判のよくない工場は販売が落ち込み、経済プランを達成できなかったが、テレビ業界全体の販売が低迷しなかったために経済への影響は小さく済んだ。
<3> 消費者の怒りの矛先が、粗悪品をつくる工場に向かい、共産党の上層部への不満は鎮まった。
<4> 商標で製造元を特定できるので、よい製品は賞賛され、粗悪品は嫌われるという形で消費者が大きな力を持つようになった。
この4つの指摘は、ブランドが消費者に何をもたらすかを的確に言い当てている。ブランドというものを理解してもらうために、多くの人に知ってもらいたいポイントである。
<3>の共産党の上層部への不満云々は、政治的すぎて面白くないが、特に<1>の消費者に選択の自由を与えるという指摘は実に的確だ。ブランドがないと選べないし、選ぶ余地を与えるのがブランドである。
この指摘に触れて私は、コロンビア大学教授で『選択の科学』(文藝春秋)の著者であるシーナ・アイエンガーを思い出した。NHKの「白熱教室」でも取り上げられた女性の盲目の経済学者である。
彼女は、「動物園の動物は、たっぷりとエサを与えられているのに、野生の動物に比べてなぜ寿命が短いのか」「スティーブ・ジョブズは、人生においてどんな選択をすることで世界を変えたのか」「24種類のジャムを売り場に並べた時と、6種類のジャムを並べた場合を比較すると、前者の売り上げは10分の1しかなかったのはなぜか」など、実験に基づけ選択にまつわるユニークな考察を発表している。
彼女は『選択の科学』で、「選択の全貌を明らかにすることはできないが、だからこそ選択には力が、そして並外れた美しさが備わっている」と書いている。
それをブランドの視点で示しているのが、レビットの<1>の指摘なのだ。