脳の活性化ではLumosityよりも先駆
石倉 算盤の効能で、もう一つ私にとって興味深いのは、算盤が脳を活性化するという話です。
藤本 脳研究でわかったのは、3桁程度の簡単な算盤計算でも、左右の前頭前野が同時に活発に活動することでした。しかも算盤は手を使いますから運動関連の領野も活発化し、その活動は計算の桁数を上げるほど活発になります。算盤計算によって活発化する脳活動は、「一般知能」と呼ばれる勉強だけではなく社会的な生活に深く関与する領域を活性化させていました。つまり、脳が発達する5歳から10歳ぐらいまでの時期に算盤を学ぶ効果は大きいのです。

石倉 いま将棋や碁など日本に昔からあるゲームが、脳の働きを活発にするという点で、子どもたちの間、小学校などで流行っているそうです。一人ひとりが静かに真剣に考える環境がつくられるので、将棋に熱心に取り組んでいる学校では、クラスが混乱して収拾がつかなくなる学級崩壊がないという話を聞いたことがあります。
ところで、算盤から話はそれますが、脳の活性化という点からは、ビデオゲームも脳の活性化には役立つという研究成果が出ています。動体視力もゲームをしている人のほうが優れているということのようです。
いままでとは違う新しい学び方が出てくると、教育界を初めとして、日本の社会では、「それは学びにつながらない」「そんなことをしていたら頭を使わなくなる」とかいって、受け入れない風潮があります。しかし実際に調べてみると、意外にも脳が活性化することがあるのです。日本では、「そんなものばかりやっているとバカになる」と抑えつけたがる、潰す傾向がありますが。
藤本 「Lumosity」という脳トレアプリがあります。すでに182カ国に6000万人のユーザーがいるそうですが、あれなども元々は東北大学の川島隆太先生が提唱されていたものです。でも日本では「インチキじゃないか」と潰されました。日本では、ワーッと人気が出たものでも自分たちが理解できない分野のものは、バーンと叩く傾向がありますよ。
石倉 いままでと違うやり方が出てくると、科学的根拠をなおざりにして「脳の力を弱める」と決めつけたがる傾向がありますね。
ところで、算盤は、脳の活動が活発化するということならば、子どもだけでなく、認知症の予防効果なども高いのではないでしょうか。
藤本 おっしゃる通りで、高齢になると記憶だけでなく、わからなくなってしまうのは数の概念ですね。
石倉 私の父は93歳なのですが、お金の勘定がわからなくなるので、買い物をすると必ず1万円札で払ってしまう。だから財布の中は小銭だらけです(笑)。
藤本 私たちも、認知症予防の活動の一つとして数を読むゲームなどを行っているのですが、計算の仕事をしてきた方などは昔取った杵柄でものすごく反応します。そして、計算がピタッと合うと、達成感からか、とても満足そうな顔をなさります。
石倉 高齢者も、ただ算盤で数の概念を思い出し、計算するというだけでなく、何かそれで仕事を手伝ってもらえばいいのではないでしょうか。ただ学ぶ、忘れない、というのではなく、社会の役に立てるという実感は、高齢化が進む中、私たち個人が生きていくうえですごく大事だと思いますが。