サービスの本質とは何なのか。レビットが『Production-Line Approach to Service(サービス・マニュファクチャリング)』を発表した当時、サービスにまつわる考えは矛盾に満ちていた。そこへ「サービスにこそプロダクツを」という革命的ともいえる問題提起と実務提案を行ったレビットの主張を再読する。

洗練されたサービスを考える“豊作論文”

「サービス・マニュファクチャリング」は、2001年11月号の『Harvard Business Review』に掲載された論文だ。この論文におけるレビットの主張は、最終節に見事に凝縮されている。

「サービスがいままでよりもっと実証的で、広範な視野を持って考えられない限り、工場外における製造と同様に考えられない限り、また工場で用いられているテクノロジーと同種のアプローチを取り入れない限り、生み出される成果は手仕事でコツコツとものを刻んで一人で仕事をする職人とおそらく変わらない。コストが高い上に、仕上がりは一定しないものになってしまうだろう」
Until we think of service in more positive and encompassing terms, until it is enthusiastically viewed as manufacturing in the field, receptive to the same kinds of technological approaches that are used in the factory, the results are likely to be just as costly and idiosyncratic as the results of the lonely journeyman carving things laboriously by hand at home.

Production-Line Approach to Service, HBR, September-October 1972.
「サービス・マニュファクチャリング」DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー2001年11月号
(1972年度マッキンゼー賞受賞論文)
『T.レビット マーケティング論』(ダイヤモンド社)第9章

 

『Harvard Business Review』の1972年9-10月号に掲載された「Production-Line Approach to Service(サービス・マニュファクチャリング)」は、同年度の「マッキンゼー賞」を受賞したように、極めて示唆に富み、得るものの多い“卓越した論文”である。「サービス」というものの本質と、今後のあり方に鋭く斬り込み、以後のサービスに対するマーケティングの考え方を変えるきっかけともなった。

 21世紀になってのことだが、2004年にアメリカのマーケティング学者であるステファン・ヴァーゴとロバート F.ライシュによって提起された「サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)」という概念がある。そのポイントは次のようになる。

 ●モノは最終的な提供物ではなくサービスを提供するための手段や媒介物にすぎない。
 ●モノとサービスを分化して捉えるのではなく、モノに下支えされたサービスを含めた全体が顧客への提供価値である。

 たとえば、無線ICタグ(RFID)で遠隔監視されているコマツの建機類をイメージするとわかりやすいだろう。コマツは、RFIDを通じて建機の稼働や消耗などの状況をリアルタイムに集約し、その情報を基に早めに部品交換を提案したり、効率的な運用方法をアドバイスしたりして、建機の購入者に高い価値と満足を提供している。

 S-Dロジックによると、コマツのビジネスは、建機というプロダクトを売っているのではなくサービスそのものを売っている、と考える。つまり、モノの提供をゴールとしてきたメーカーには、単にモノづくりにとどまることなく、ユーザーとともにさまざまな価値を生み出していかなければならないという課題が浮かび上がってくる。

 レビットの「サービス・マニュファクチャリング」が考察対象とするものはS-Dロジックとは真逆だが、その論旨はS-Dロジックと大きな共通点がある。S-Dロジックが、「プロダクトではなくサービスである」と訴えるのに対して、レビットは「サービスにこそプロダクトを」と訴えている。

 レビットは、サービスといわれるものの本質を解明し、そこに製造業の発想を注入していくことで、サービス業は顧客からもっと支持されるサービスを実現できると訴える。

 後年、マーケティングの新潮流を生み出す、発想の源流ともいえるような指摘に溢れた論文が「サービス・マニュファクチャリング」なのである。