製品定義の見直しが大前提となる
サービスに製造の発想を取り入れるにあたって、レビットはケーススタディを通じて2つの教訓を導き出している。それは、テクノロジーを使えば使うほど、サービスがよくなるという誤解に対する戒めでもある。
コンピューターを利用した病理診断サービス、先生と生徒が対話しながら学習するティーチングマシンなどの失敗(いずれも現代では驚くべきことではないが、論文執筆はIT革命のはるか前の1972年である)、また大手石油会社による夜間預け型の自動車修理サービスの失敗も取り上げ、次のような教訓を導き出した。
「サービスに製造のアプローチを応用しようと試みるならば、<1>企画と設計の段階でテクノロジーの可能性を低めに見積もったり、<2>現場における実施段階でテクノロジーの複雑性を前面に押し出し混乱させたりして、 おそらく失敗するだろう。人間とその神秘的な能力に代えてテクノロジーとシステムを用いるには、基本原理の企画と設計においては複雑ではあっても、マクドナルドの例のように、現場においては単純でなければならない」
つまり、「テクノロジーの可能性を軽視してはならないが、現場段階では単純でなければならない」というのが、サービス・マニュファクチャリングの実務的な要諦になる。
そしてレビットは最終的に、「顧客が何を求めているかによって製品を定義する」ことで、サービスへの製造発想の導入はより確かなものになる、というメッセージを届けるのである。
レブロンの社長は、「工場では化粧品をつくり、店舗では希望を売ります」と言う。つまり、何をつくっているかで製品を定義するのでなく、顧客が何を求めているかで定義しているのだ。マクドナルドも明らかに同じで、ハンバーガーだけでなく、スピードや清潔さ、信用、品質の一定さを売っているのである。
「人々の購入するものは形を有する製品ではなくて、人々が利用するツール――自分たちの問題を解決し、意図したことを果たしてくれるツールこそが製品なのである」
「顧客サービスが意識的に『工場の外での製造』と考えられるならば、製造と同じような細やかな配慮が受けられるはずである」という指摘は、製品もサービスも単品としてあるのではなく、提供している製品とサービスの総合物こそが顧客に届けるべき価値であることを指摘している。簡単に言えば、“狭視眼”になっては製造もサービスも成功はつかめない。まさにS-Dロジックに通じるところだ。
レビットは、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2001年11月号の特集「マーケティングの針路」のインタビューで、サービス・マニュファクチャリングについて次のように語っている。これを紹介して、今回の連載を終えることにしよう。
「多くのメーカーがサービスと製造はまったく異質なものだと勘違いしています。(サービスは工場の外で行われる管理できない活動である等々という認識があり)サービスを顧客価値の中核部分とは考えずに、売上を発生させるための『おまけ』と見なしていることが問題なのです。実は、ほとんどの商品の中核的価値はサービスによって生み出されています。(略)製造はテクノロジーの論理で考える。これが成功の理由です。サービスは人間の論理で考える。これが失敗の理由です。製造はハード・テクノロジーが用いられるが、サービスはソフト・テクノロジーによって生産することができるのです」