人生3回リセットのすすめ
――人生90年時代のライフスタイルについて、これから私たちはどのように考えていったらいいのでしょうか。
日本の社会が迎えつつある、生物学的にもうまく説明できない、人類未踏の超高齢化社会の意味を、これまでの思考の踏襲ではなく、大胆な仮説を立てること でとらえ直すことが必要です。いま起こっていることの本質は何か、何が中核課題なのかをみなうまく説明できていないと思います。

東京大学EMP 特任教授
社会保障が破たんするとか、医療費が膨大に膨れ上がるとか、現象面ばかりで大騒ぎをして、なぜそういうような、社会のつじつまが合わなくなることが起きるかについて、議論がまったく深まっていません。
――現象を見るのではなく、中核課題をとらえよ。社会システム・デザインの鉄則ですね。
最大の問題は、定年を迎える年齢と死までの時間のバランスが崩れたことです。昔は、55歳で定年になったら65歳までにはほとんどの人が死んでしまった。人々が長寿になり始めた頃、定年を60歳まで延長したのですが、その後、ある時期から高齢化が一気に進んで、定年を65歳まで延ばしても、昔のように余生を10年ほど過ごして亡くなるという状況ではなくなっています。
団塊の世代は、2人に1人が90歳を超えて生きていくだろうと予測されています。このような事態は、日本だけでなく、世界中が経験したことがありません。定年後の余生が、最大で30年になってしまうという現実。10年程度の余生を前提に設計された年金制度などもつはずがありません。
――現超高齢化社会の問題の根っこは、そこですね。
最も簡単な答えは、みな75歳まで働けばいいのです。日本でジェロントロジー(老人学)を推進してこられた東大の秋山弘子教授は1987年からコーホート分析のできるよう同じサンプルを長年追うという形の高齢者データを集めておられますが、それによると現在の高齢者は10年前の高齢者と比べて身体能力で11歳若返っているそうです。それに、記憶力は年齢とともに落ちるが、判断力はかえって向上していくということもわかってきたようです。
そうすると75歳まで働いてもこれまでの64歳と同じということになります。もう少し努力して78歳くらいまで働けば、その後の余命は10年ちょっとということになり、これまでの年金の想定とあまり変わらなくなります。年金問題はだいぶ改善されるでしょう。
しかし、社会全体が、このことを理解し、納得して、本当に75歳まで働くようになるまでには、少し時間がかかります。 しかし、定年を過ぎても働ける間は働いていたいと望む日本人はヨーロッパ諸国の人と比べると格段に多いのです。ちゃんとその希望に答えるように「社会システム」をデザインすれば、結構早く成果は出るのではないかと思います。
重要なのは高齢者雇用システムです。「3日4日で暮らす一週間」という標語をかつて作りましたが、パートでだらだら働くのではなく、3日間は責任感と集中力を持って働き、4日休むという雇用機会を提供するシステムです。自分が役に立っていると実感が持てるシステムです。
こういう話をすると、すぐに、高齢者が70過ぎまで仕事をやめないと、若者の仕事が奪われるといった反論が出るのですが、そんなことになりはしません。マクロ的には就業人口が足らなくなってきていることはすでにわかっていることです。それに、これまでの就職先で雇用条件を変えて再雇用をやるいまのようなやり方とは違うことを考えています。高齢者向きの新しい雇用機会をつくり出すのですが、そのためには能力訓練も必要です。