エコシステムのもたらすインパクト

 企業の枠を越える“生態系”の概念は、連携とコラボレーションによってケイパビリティを組み替え、変化に対応してきた米国のテクノロジーセクターに、まず大きなインパクトを与えた。エコシステムと言えば、フェイスブックのサービスが人から人へ自然に拡散される仕組みを思い出す人も多いだろう。

 その後、デジタル技術の大幅な進歩と情報共有手段の多様化により、「ビジネス・エコシステム」のコンセプトはセクターを越えて定着し、既存のビジネスのあり方を変えてきた。これまでの産業は、大きく、内部で垂直統合し、自ら必要な機能を備える企業によって動かされてきたが、新しい時代にはビジネス上の価値は、いつでもどこでも、必要に応じた関係性とコラボレーション、相互依存によって生み出されるものになったのだ。

 今日では、エコシステムは、よりパワフルで新しい競争優位を築くためのツールだ、とする見方が有力になっている。ソフトバンクの例に加えて、ノキアのCEOは2010年頃、「デバイスの競争が、エコシステムの競争になる。つまり、我々の競争相手は、デバイスのシェアを奪う相手ではなく、エコシステム全体のシェアを奪っていく相手なのだ」と語っている。

 また、強いエコシステムを生み出すため、競争相手を自分達のエコシステムに加えることを歓迎するリーダーも出てきている。そして単独の強いプレイヤーに頼らずに発展するエコシステムも出てきている。例えば中国では、“shanzhai ecosystem”という約100社が参加するネットワークがあり、次世代のスマートフォンやスマートウォッチのイノベーションを加速させている。このようにエコシステムの概念はビジネスに新たなマインドセットと枠組みを与え、世界中で企業同士の関係性やネットワーク、協調やコラボレーションの重要性を、かつてなく高めているのだ。