未来に向けた5つの変化

 経済はいつの時代も、人間の欲求やニーズを実現するためのシステムとして発展してきた。そして今、様々な産業を横断するエコシステムが、我々の欲求を満たす新たな手段を形づくり始めている。このような動きは現在進行形であるが、その影響力は決して軽視できない。エコシステムが現在引き起こしつつある、企業にとって将来の機会にも脅威にもなりうる変化としては、次の5つがある。

<1>人間の基本的な欲求やニーズに、新たな手段をつくり出して応える

 自動車産業を例にとると、早く・安く・安全に・便利に移動したいというニーズに様々なエコシステムが応える一方で、グーグルの自動走行技術等の登場により、個人が車を所有する魅力は失われている。こうしたドラマティックな環境変化により、“移動手段のエコシステム”は、自動車産業のみならず都市プランナー、テクノロジー及びエネルギー業界関係者、公共交通機関の運営者、インフラや建設関連の業者、保険会社など様々なネットワークが相まって発展すると予想される。

<2>新たなコラボレーションを促し、社会環境を変えていく

 エコシステムには、個々の参加者では持ち得ない効果的な視点やケイパビリティをもって、社会課題を解決していく特徴がある。例えば、GFSI(Global Food Safety Initiative)というNPOは、食糧に関する世界の主要なプレイヤーが参加し、食糧システムの課題に取り組み、安全と評判を保つべく活動している。GFSIの参加者たちは、市場で激しく競争しつつも、認証や基準の制定、モニタリングに共同で取り組み、学びを共有し、より安全な食品業界をつくることで、消費者の信頼感を高めている。

<3>コミュニティをつくり出してそれに奉仕し、創造性と知恵を活用する

 今日ではあらゆる企業が新たなコミュニティをつくり、グローバルな成長の機会を捉えようと模索しているが、その中で従来は受身な存在とみられていた顧客を、能動的な参加者と捉える見方が浮上している。例えばレゴブロックで有名なレゴグループでは、ポータルサイトで新商品のアイデアを募っており、老いも若きも熱心なファンがアイデアを送ることで、新しい商品を生み出している。このように、外部の必要なスキルを持つ個人を無償で引き付けるオープン・ソース・ムーブメントが、ソフトウェアの世界から広がりつつある。

<4>パワフルな新しいビジネスプラットホームの上に生まれる

「プラットフォーム」は多様なプレイヤーの参加を促すようにつくられた、強力なエコシステムである。今日では、デジタル技術の発展によるアクセシビリティの向上などで、多くの参加者を引き付けるプラットフォームが出現している。例えばVISAは、クレジットカード業界にプラットフォームを提供し、顧客への規程の説明や確認などの手間を省くことを可能にしたため、市場を爆発的に伸ばすことができた。またオークション市場による「共有の経済」を提供し、これまで価値を十分認められなかったものに価値を与えたe-bayの例や、オープンコラボレーションによって生まれたOS(Operating System)であるLinuxの例もよく知られている。

<5>学習とイノベーションを促す

 エコシステムは顧客や研究者、個人など、これまでビジネス上ではアクセスできなかった、明確な意思や知見を持った人々に、場所を問わずアクセスすることを可能にする。学習とは大半が社会的な活動であり、イノベーションは異なる分野の知見の組み合わせで生まれる場合が多いため、柔軟で、知識を交換し易く、共創的なエコシステムを通じたコミュニティでは、必然的に学習とイノベーションが起きやすくなる。通信会社テルストラの首脳は「我々がパートナーに求めているのは、イノベーションだ。これまでのやり方に同意するのではなく、むしろ異論を唱え、我々に異なるやり方と、それをどう行うべきかを教えられるパートナーを探している」と話している。