デジタル化や業種を超えたコラボレーションの増加により生まれた“ビジネス・エコシステム(生態系)”が、既存産業の境界線を変えるとともに、新たな枠組みをつくる地殻変動を起こし、ビジネスの風景を一変させている。デロイトのレポート“Business ecosystems come of age”は、グローバル化や技術発展の影響を受けて進行するこの動きがもたらす未来のビジネスの方向性を明らかにし、それに伴う社会の変化がかつてないスピードと規模で進むと予想している。このレポートが提示するビジネス・エコシステムの概念とその影響を要約して紹介する。

ビジネスの“生態系”とは

「ビジネス・エコシステム」というキーワードを耳にする機会が増えている。中国のアリババ・グループは2014年9月のIPOの説明会で、自社のビジョン・哲学・成長戦略を語るため、この言葉を160回も繰り返した。またソフトバンクのCEOである孫氏も同じ頃、新たな競争優位を築く手段としてこの言葉に注目し、「あらゆる種類のコンテンツをプラットホームに載せることで、他社にまねのできない完全なエコシステムをつくり出す」と、次の戦略を示した。一体なぜ、彼らはビジネスの向かう先をエコシステムという言葉で表現したのだろうか。

 エコシステム(生態系)は1930年代に英国の植物学者によって造り出され、動植物が水や土壌などの環境と影響し合いながら暮らすコミュニティを指す用語として使われてきた、自然界ではおなじみの言葉である。生物はそこで競争し、協調し、資源を分け合い、外部変化に適応しながら生きてきたが、その様子を表す言葉が今、ビジネスが発展する方向を示すキーワードとして浮上しているのだ。ビジネスの分野ではこれまで、スポーツや軍隊の用語が比喩として使われることが多かったが、自然界の用語が使われるようになったことの意味は大きい。

「ビジネス・エコシステム」という言葉を初めて経済の世界に持ち込んだのは、ビジネスストラテジストのJames Moore氏であるが、1993年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に寄稿した論文の中で彼は、「成功するビジネスは孤立状態ではなく、資金や協力者、サプライヤー、顧客を引き付け、協調のネットワークをつくり上げる」とそのイメージを述べている。その斬新なコンセプトはモバイル革命が現実化するとともに発展し、今日、ビジネス・エコシステムは、次の3つの性格を合わせ持つものと理解されている。

個々のプレイヤーのケイパビリティだけに頼らない、多様な参加者によるダイナミックで共創的なコミュニティを形成する
人間の根源的な欲求やニーズ、社会課題に対して、かつてない協調的な解決策を提供し、新たな価値を創出する
競争しつつも、共通の利害と価値観のもとに顧客の要求を満たす解決策を考え、相互に利益を享受する