製品が生き残るには差別化が不可欠だ。その前提となる製品概念を解剖し、製品概念の拡張に応じた対策と、それを実現するマーケティング・マネジメントの重要性に関する先駆的な論考を読んでみよう。

製品、サービスは必ず差別化できる

『T・レビット マーケティング論』(ダイヤモンド社)に所載されている論文をあらためて読んでいくと、彼の先見性の高さに驚かされる。そして今回また、「やはりレビットが最初に言っていたのか」と唸った。それは、製品概念と差別化についての指摘だ。

「差別化できない製品やサービスはない。どんなものでも必ず他との違いを際立たせることはできる」
There is no such things as a commodity. All goods and services are differentiable.
「現実の市場では、価格競争がどれほど熾烈であっても、価格以外の要素が必ず考慮されるものだ」
In the actual world of markets, nothing exempt from other considerations, even when price competition rages.
「品物それ自体は差別化できる要素がないとしても、紹介の仕方によって顧客の心をとらえたり、配送の仕方で顧客を囲い込んだりするなどの違いが生じてくる」
When the generic product is undifferentiated, the offered product makes the difference in getting customers and the delivered product in keeping them.


Marketing Success Through Differentiation -- of Anything, HBR, January-February 1980.
「マーケティングの成功条件は差別化にある」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー1980年5-6月号
『T.レビット マーケティング論』(ダイヤモンド社)第13章

 

 1970年代、しばしばレビットと対比されるフィリップ・コトラーは「マーケティング(製品)概念拡張論」を提唱した。マーケティングが対象とする領域を、企業からプロダクツとして提供される製品やサービスに限定するのではなく、より広い領域に適用しようとするものだ。

 たとえば、大学における学問の教授、教会による礼拝、病院による診療・治療、警察による治安維持などもマーケティングの対象となりうる。それをコトラーは、「マーケティングの核心は、市場取引という狭い概念ではなく、交換という一般概念にある」という言葉で語っている。一言で言えば、「エクスチェンジのある所には必ずマーケティングが成立する」というのが70年代の拡張論だった。

 掲載こそ80年だが、レビットは、論文の内容からして早くから拡張論へとつながる発想を持っていたことがわかる。本論文の冒頭で、「差別化できない製品やサービスはない」と宣言し、水や食卓塩など典型的なコモディティ商品でさえ差別化できると言い切る。それによって価格競争を避ける道を探るのが本論文の狙いだ。

 このメッセージは、後のジャック・ウェルチのメッセージである「成熟市場などというものはない。どんな市場でも成長機会はある」という宣言にも似ている。つまり経営者の構え、挑戦によって自社が提供する製品やサービスは必ず差別化できるのだという応援メッセージになっているのである。